「へいへい、タロー、降りろって」
恐持てに睨みをきかされて、力は仕方なさそうにタローに向かって床を指差すと、のそのそと身体を起こしたタローは床に降りて今度は座った。
力がテーブルの上のバスケットの中からビスケットをひとつ取るなり、すかさず練が言った。
「二百円」
「ちぇ、かてぇこというなよぉ」
「売り物だ」
「わぁかったよ」
ものぐさそうに、力は財布から二百円を取り出すとテーブルに置いてから、ビスケットを袋から出して期待に満ちた目を向けているタローの前に置いた。
「待て」
タローはもぞもぞと待ち切れなさそうに、それでも許しが出るまで力をじっと見つめている。
「食ってよし」
途端、あっという間にタローはビスケットを食べてしまった。
「よし、タロー、伏せ」
タローは力の命令に素直に従う。
「力の命令なら絶対なんっすよねぇ、俺なんか何言ってもタロー動きゃしねぇのに」
「マサにゃ、威厳ってもんがねぇんだよ、ひょろ長いばっかで」
力は鼻で笑う。
「それを言うなら、こないだ来たヤツ? 俺よか、弱っちそうなのに、タローのやつ、すっかり懐いちまってたって、百合江さんが。ああ、ほら、ちょうど俺が店に入る時出てったヤツ」
モップを使いながら、マサは心外だとばかり文句を言った。
「成瀬くんだろ? 威厳があったんだよ。身体の大きさじゃねぇ」
すっかり佑人フリークになった練が口を挟む。
力がその話を聞いたのは、つい昨日のことだった。
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