「わかった」
成り行きで肩を並べて駅へ向かう。
「成瀬、今夜の予定は? 彼女とデート?」
「……わけないだろ」
「フーン、じゃ、ホームパーティとか?」
「いや、別に何もないよ。うち、親二人とも仕事だし」
毎年クリスマスシーズンになると、美月が居間に大きなツリーを飾り、家中が日毎にクリスマスアイテムでいっぱいになっていく。
子供の頃は、イブの夜には美月のお手製のケーキやローストチキンや、佑人の好きなものがところ狭しと並んだテーブルを家族みんなで囲んだものだ。クリスマスの朝にはツリーの周りにラッピングされたたくさんのプレゼントが溢れている。
ここ数年、イブの食卓やプレゼントやは同じだが、肝心の美月や一馬は仕事だ学会だといないことが多く、郁磨やラッキーと過ごしている。
今年はその郁磨も研究室の飲み会に借り出されたらしく、帰っても出迎えてくれるのはラッキーだけだ。
郁磨は気にしていたが、高二にもなっていい加減サンタクロースを待ってる子供じゃないから、と佑人は笑った。
いや、おそらくサンタクロースではなくクリスマスに一緒に騒ぐ友達や彼女さえいない自分を郁磨は心配しているのだろうとはわかっていたが。
「へえ、じゃあ、俺んち、来ない?」
唐突な坂本の申し出に佑人は戸惑う。
以前は、自分の過去を知っている嫌なヤツ、として佑人の中で近づきたくない人間でしかなかったが、話してみるとサバサバしていて、そう嫌なヤツでもないかもしれないという気がしていた。
心を許すようなことはないのは変わらなかったのだが。
「……いや、急にお邪魔したら家の方にご迷惑だし」
予定はないといった手前、断るに断れない。
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