空は遠く87

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 どうして山本がとか、どうして今、自分がここにいるのかとか、取りとめもない疑問が頭の中を侵食するばかりだ。
「大丈夫か? 飲みな、あったまるぜ。コート、預かろう」
 恐持ての顔を想像しなければ、ひどく優しい言葉で練が佑人の肩をポンとたたいた。
「……はい、ありがとうございます」
 練は佑人が脱いだコートを受け取ってカウンターの中のクローゼットにかけた。
 温かい液体を一口飲むと、じんわりとその温かさが身体中を巡った。ようやく深く息をついて、佑人はガチガチだった強張りを解いていく。
 それでも力のポケットで鳴り始めた携帯の音に、ドキリとする。
「おう、ああ、今? 店。……知るか、だったらお前何とかしろよ」
 うるさそうに言うと、力は携帯を切り、ソファに放り投げた。
「練、なんか食わせろ。腹減った」
「今夜の特別メニューならあるぞ。パスタかキッシュとケーキのセット」
「ちっ、何かもっとガッツリ食えるもんないのかよ」
「うちは喫茶だからな。他はワインに合わせてブルスケッタ、ローストチキンとかあるが、丼メシとか食いたければ松木屋でも行ったらどうだ?」
「しゃあねぇな、じゃあ、パスタとキッシュ、ブルスケッタもローストチキンも大盛で」
 ふんぞり返った力はふてぶてしくも注文をつける。
「今日のケーキはブッシュドノエルだ」
「フン、ケーキなんて甘ったるいもん、食えるかよ」
「何度も言うようだが、うちはケーキとお茶がメインの喫茶だ」
 練が恐持ての顔で睨みを利かせるが、力はどこ吹く風だ。
 力と練のやりとりを見ながら、佑人はやっと落ち着いて頭の中を整理できるようになっていた。
 おそらく啓太を助けて逃げた時のことを根に持って、さっきの学生らは佑人に仕返ししようとしていたのだ。

 


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