ただ彰子が当時付き合っていた相手との結婚を父親に反対され、家同士の結婚で沢村家に嫁いだことなどは少し哀れに思ったのは確かだ。
亡き祖父が彰子のことを不憫がっており、当時の恋人と別れさせて、すまないことをしたと沢村に語ったことも覚えている。
最近になって、ボランティア活動などで彰子は生き生きしてきて、当時の恋人とよりを戻したことも、彰子にとって良かったのだろうと沢村も思っていた。
それにようやく沢村との離婚を決断したことも。
だからといって、沢村のテリトリーにさらに近づいて来ようとする彰子を沢村は拒絶した。
今更母親面されて、沢村のプライベートに口を挟んでくるとかは金輪際ごめんだった。
「言っておきますけど、私はあなたのことに口を挟んだり文句言ったりするつもりはないわよ。こないだも私の話を最後まで聞かずにさっさと行っちゃうし」
「だったらなんでこんなところに来るんだよ」
半分喧嘩腰で、沢村は彰子に詰め寄った。
「有名なのはあなただけじゃないのよ。佐々木さん、素敵な方ね。箱根の坂下さんが、あなたのお付き合いしている方が、クリエイターで茶道家の佐々木さんじゃないかって、雑誌を見せてくださったのよ」
坂下さんが雑誌を見てか、意外なところから情報が入ってくるもんだな。
沢村は眉を顰めた。
「あんなきれいな方他にはいらっしゃらないって、坂下さんおっしゃるから、私もちょっとお会いしてみたかったのよ」
彰子の言葉にそんな裏があるようには聞こえなかった。
「おふくろに会っただろうって佐々木さんに聞いたが、会ったことはないって言ってたぞ」
「だって、お話しただけだし、あなたの母親だなんて名乗ったりしてないもの」
ふう、と沢村は一つ息をついた。
「良太、直ちゃん」
沢村が二人を呼んだ。
「俺のおふくろ、と今のパートナーの梶田さん。ダチの広瀬良太と佐々木さんのアシスタントの池山直子さんだ」
良太も直子もいきなり母親だと紹介されて面食らったものの、はじめまして、と頭を下げる。
「彰子です。離婚したから今は大河内ですけど」
「梶田です」
ずっと口を挟むこともなく、彰子に寄り添っていた穏やかな顔の男は、初めて口を開いた。
「あら、あなた、リトルリーグで智弘とよくケンカしてた子ね?」
彰子がポンと両手を叩いて良太を見つめた。
「え、はい。そうですけど……」
良太は意外そうな顔で彰子を見た。
「やっぱり! たまに試合を見に行ったのよ。今もお友達でいてくださるのね」
「アハハ」
お友達などと言われて、背中のむずがゆさを良太は笑ってごまかした。
「あの、ひょっとして、いつかオフィスにお電話いただいた方ですか?」
明るくて楽し気な話し方が直子には印象的だったのだ。
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