ACT 1
元旦からカラリと晴れた年明けとなった。
テロや低迷する経済など厳しい報道が相次いだ年を終え、世の中は少しでも明るい兆しをと新しい年へ希望をつないでいる。
「はあ? お茶会? ですかぁ?」
良太はぽかんと口を開けたまま、書類作りに取り組んでいたパソコンから顔を上げた。
「ああ、綾小路の小夜子さんから、直々初釜のお誘いだ。いい加減、口を閉じろ。間抜け面もほどほどにしとけ」
辛らつな工藤の言葉にムッとしながら、良太はきっと唇を結ぶ。
「お食事会とかってならまだしも、俺、お茶とか、お茶会なんて、これっぽっちも縁がないですし。俺は遠慮しときますよ」
「茶会も出たことがないのか。だったら、一度くらい出てみたらいい」
さっきの電話で、工藤は一体誰と話しているんだろうと良太は気になっていた。
珍しく時間が空いていたのか、オフィスにフラリと戻ってきた工藤は、ちょうどかかってきた電話を取った。
時折親しげに小夜子さん、とか工藤が相手のことを呼んでいたので、良太はパソコンの画面に顔を向けながらも、ついつい耳をそばだてていた。
どこかで聞いたことがある名前だとは思った。
綾小路小夜子は財界の大物、東洋グループ次期総帥綾小路紫紀の夫人だ。
それより何より、あの、小林千雪の従姉だったはずだ。
以前、工藤にチラッと聞いたことがある。
しかも千雪の相方で傲岸不遜な京助は、紫紀の弟になる。
だが小夜子本人に会ったことはないし、どのみち自分とは住む世界が違うだろう、くらいしか良太には認識されていない。
電話の内容は、その小夜子から、週末に自宅で行われるという初釜に、工藤と一緒に招待したいというものである。
東洋グループはこの青山プロダクションにとっても大事なスポンサーだ。
工藤は何をおいても駆けつけざるを得ないところである。
「だって、海外の大事なお客様が主賓のお茶会なんでしょ? 工藤さんはわかるけど、俺なんか行ったところでお邪魔になるだけでしょうが」
高校の文化祭で、菓子につられて茶道部の女の子に無理やり抹茶を飲まされたことはあるのだが、メチャ苦かった上に、畳の上に長いこと座らされて足がしびれた、ドンくさい思い出しかない。
できれば良太にとっては遠慮というより勘弁してもらいたいと、あれやこれやお断りの理由を並べ立てる。
「小夜子さんがドラマをたまたま見て、千雪に自分の教え子だと聞かされたからだと」
そんな皮肉っぽい言い方しなくてもいいじゃん。
どうせ、ドヘタな演技だってくらいわかってるさ。
苦々しげに煙草をくわえる工藤を、良太はちょっと睨みつける。
乃木坂に瀟洒な自社ビルを構える青山プロダクション。
数名のタレントを抱え、そのマネジメントも事業の一端だが、社長の工藤高広は、在京のキー局に在籍していた当時からテレビ、映画などにおいて数々の作品に手腕を発揮している業界では知らないものがない敏腕プロデューサーだ。
そして工藤の秘書兼雑用係兼運転手兼ちょこっとプロデュースの仕事もかじってみました、というのが広瀬良太である。
最近では、その上CMやドラマにも出演しちゃいましたとなれば、もうこれは何でも屋というしかないだろう。
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