清風2

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 しかも、工藤と良太が恋人関係だというのは、社内及び近しい人間の間では暗黙の了解である。
 社長と秘書がくっつくなんてのは世間でよくある話だが多少違うとすれば、あいにく二人とも男だというくらいのことだ。
 年が明けて四日、工藤からもらったクーポン券で、良太は家族四人揃って北海道へ二泊三日の温泉旅行に行ってきた。
 夏に予定していた家族旅行にCM出演騒動で良太が行けなかったことを工藤は考慮してくれたのだ。
 家族揃っての旅行なんて何年ぶりだったか。
 今は熱海の温泉で働いている両親だが、北海道だし、層雲峡温泉までタクシー付きで優雅な部屋で一家は美味しいものを食べて大いに羽を伸ばした。
 やっぱかなわないや。
 良太がCMに出ると言い張った時、工藤が心配したのは、家族と旅行に行く約束を反故にすることだった。
 工藤と自分を比べるなんておこがましすぎると思うのだが、そんな時、どうしても自分が小さく思えてしまう。
 仕事を持っているタレントは別として、青山プロダクションの仕事始めはそんなわけで七日になった。
 カレンダー通りなら翌日が土曜日で世の中は三連休のはずである。
 オフィスも対外的には土日は営業していないことになっている。
「マネージャーの募集広告、明日の情報誌や新聞には載りますけど、来てもなかなか決まらなさそうですよね」
 良太はさり気に話題を変える。
「小杉に兼任してもらうしかないだろう。決まるまでは」
「でも小杉さん、志村さんと今LAじゃないですか。いいですよ、当分、俺やりますから」
 何をやるかというと、昨年急遽この青山プロダクションに移籍することになった俳優、小笠原裕二のマネージメント関係の仕事である。
 モデル出身の若手人気俳優、小笠原裕二が、所属していたマネージメント会社社長にギャラなど数億という金を使い込まれた挙句、持ち逃げされた話題は、先頃ワイドショーを賑わしていた。
 小笠原は元バンドマンの父親が所属していたその会社で学生の頃からモデルとして活躍していたが、仕事や金銭面一切をその社長に任せていた。
 売れない役者が二、三人いるだけで、会社自体ほぼ小笠原の活躍に依存していたといえる。
 社長は多額の借金を抱えていたらしく、金はすべてそちらに流れたのだという。
 自分のほとんど全財産を使い込まれた小笠原本人は、「マネージメントも、自分でやるっきゃないっすかね」などと、マイクを向けられてもあっさりしたものだった。
 だが、そこで浮上したのが、青山プロダクション移籍説だ。
 どこから流れたのかわからないが、話は事実で、実は工藤の元同僚でディレクターの下柳が、工藤に打診してきたのだ。
 小笠原を欲しいというプロダクションはいろいろあったようだが、疑心暗鬼になって選べない、と、小笠原はたまたま飲み仲間の下柳にもらした。
 そこで、下柳が青山プロダクション移籍話を持ち出したというわけだ。
 工藤も直接小笠原と会ったが、工藤の背後にある、暴力団中山組組長の甥という出生の事情もとっくに知っていたらしく、怯むことなく、お願いしますと頭を下げた。
 年末に工藤は小笠原を引き受けることを承諾したが、それによって良太も俄かに忙しくなった。
 工藤や自分の企画書のほかに小笠原の引継ぎ書類なども急ピッチでやらなくてはならなかった。

 


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