青山プロダクションは現在、志村嘉人、中川アスカ、南澤奈々と、三人のタレントを抱えているが、当分は小笠原のマネージメントも志村のマネージャーでベテランの小杉に兼任してもらうことになっている。
その小杉が帰ってくるまでは、良太がやらざるを得ないだろう。
小笠原本人とはまだ一度顔を合せただけだが、この自信家の人気俳優とうまくやっていけるかどうか、良太は少し心配だった。
どうも、一悶着ありそうな気がするんだよな。
「自分の仕事を優先しろ。無理な仕事を増やして、倒れたんじゃ、もともこもないからな。ああ、企画書は今日中だ。今夜は打ち合わせのあと飲みに行くが、何時になるかわからないから、タクシーで帰る。ああ、日曜、スケジュール、空けとけよ」
工藤はそれだけ言うと、ブリーフケースと上着を掴んでオフィスを出て行った。
「ちぇ、結局、俺の都合なんか無視なんだから」
ゆってること、矛盾してるじゃんよ。
そうは思いながらも、良太の都合は健気にも、いつでも忙しい工藤に合せられるように未定にしてあるのだが。
「あら、ステキじゃない、あの東洋グループの会長さんの家なんて、なかなか行けるもんじゃないわよ。行ってみたら?」
良太がボソッと口にしたのが、さっきからパソコンで経費の処理に余念がない鈴木さんにも聞こえたらしい。
「それに、綾小路小夜子さんて、とってもきれいな方よ。前に雑誌のセレブ紹介って記事で見たことがあるわ。ただの若奥様ってだけじゃなくて、ご実家の呉服会社の重役もなさってるんですって。すごいわねぇ」
「はあ、そんなすごい人なのか…」
あの小林千雪の従姉だというのだから、きっとすごい美人なんだろう。
会社の重役やってるなんて。
良太はバリバリのキャリアウーマンを想像して、ふうとため息をつく。
だが、時間が経つにつれて心の片隅にあったもやもやがはっきりしてくる。
確かに青山プロダクションにとっては大事なスポンサーなのだろうが、工藤があんなにはりきって行こうとするのは、千雪がいるからではないかと。
俺ってやつは…………
茶会に行く理由が結局そこに至るというのも情けない気はする。
電車に乗れば、自然アスカが表紙を飾る女性誌の広告が目に留まる。
中吊り広告をチェックするのも良太の仕事のうちだ。
改めて見ると、アスカはかなりな美人なんだと思う。
まあ、我侭で人使いが荒いけど、あれで正義感も強いし優しいところもあるのだ。
ふと別の広告に目を移し、良太はウッと固まった。
謎の『和泉秀也』とは何者? などと小さく出ているのを見つけてしまったからだ。
小笠原のことよりも、実は良太の頭を悩ませているのがこれだ。
工藤の承諾も得ず鴻池の姦計にはまった形で、良太がほんの端役で出演したドラマの反響が思いがけないところでやってきたのだ。
わざわざ鈴木さんがビデオを撮ってくれたのだが、恥ずかしくて、自分ではまだしっかり見ることさえできないでいる。
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