見るな、と釘を刺したにも関わらず、妹の亜弓も両親もしっかり、『見たよ、お兄ちゃん、ナカナカのもんじゃない』
旅行の間もその話題はナシ! と喚く良太をみんなが笑っていた。
良きにつけ悪しきにつけ良太の予想を上回る反響で、さらにドラマが終わった三日の夜の時点で、かなりテレビ局に問い合わせがあったらしい上、あっという間に画像や動画がネットでも拡散していた。
ドラマについての電話は、翌日から会社にも何度かかかってきたようだ。
ネコの世話に良太の部屋を訪れた鈴木さんがそう言っていた。
「時々工藤さんがオフィスにいらしてた時にもそんな問い合わせがあったみたいよ」
何気ない鈴木さんの言葉に、良太はゲッと思う。
どおりで朝から工藤の機嫌が悪いわけだ。
CMと違って、ドラマのクレジットには名前が流れる。
芸名なんかもなかったから役柄そのままの名前をもらった『和泉秀也』は、その後も週刊誌やワイドショーの片隅を少々賑わしたりした。
CMの時はそんなやつどこか行っちゃいましたで何とか免れたものの、今度ばかりは『和泉秀也』が青山プロダクションの広瀬良太とかぎつけた者もいて、電話では拉致があかないとばかりにオフィスにまで雑誌記者やらルポライターがおしかけてきたりと、しばらく良太は、外回りをするのもビクビクものだった。
面倒臭いから、開き直って、あれは臨時の仕事でもう俳優やCMの仕事をやることは金輪際ないのだときっぱり言ってしまいたいと宣言してみるが、そんなことをすれば逆に騒ぎを大きくするだけだ、と工藤に一蹴される。
せっかくあの時のことはすっかりきっぱり水に流して、公私共に工藤と楽しくいきたいじゃん、などと思っていたのに。
身から出たさびってやつだけど、どうして俺ってこう、後先考えずにバカばっかやるんだろ。
「良太ちゃんって、とっきどき、マジおバカちゃんなんだよね。T大出てるなんて全然思えなぁい」
年末にも大ボケをかまして、ケラケラと奈々にも笑われたばかりだ。
自分の仕事が長引き、工藤を迎えに慌ててスタジオに行くと、ドラマの収録を終えたばかりの大澤流がいて、『工藤なら、山下町でロケだから、そっちにすぐこいってさ』と言われた良太は、すぐさま車をかっ飛ばした。が、首都高に上がってまもなく夕方のラッシュ時に引っかかり、にっちもさっちも行かなくなってしまう。
そこへ、工藤から携帯に連絡が入った。
『山下町だぁ? バカヤロ! 脳みそ叩きなおせ! 世田谷のどこにそんなものがある! 山下公園だ!』
そういえば世田谷が舞台のドラマだった。ちょっと考えれば山下町なんかではないとわかるはずだ。
例え、例のドラマ撮影のことを根にもって、大澤流が良太に意地悪したのだとしてもだ。
あんのやろう! ああ、どうせ俺はバカですよ、まぐれですよ、俺だって何であの大学出てこられたのかわかんねーんだから。
ここのところ、工藤に対して良太の株は下がりっぱなしで、ついつい良太のため息も多くなろうというものだ。
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