清風5

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 ぽっと出の『和泉秀也』に対する世間の評判がどうあろうと、工藤の仕事を踏襲していこうと思っている良太にとってはそっちの方が重大事なのである。
 だって、ここんとこな~
 工藤が忙しいのは毎度のことながら、ここ三週間ほどちっともちゃんと話も出来ていないのである。
 恋人なんておこがましい関係ではないとは良太もわかってはいるが、それでもたまには、と思いたくなる。
 経理の鈴木さんは別としても、良太やマネージャーやタレント、それに工藤は世間一般のようにカレンダー上の休日が休みとは限らない。
 ただでさえ仕事の鬼のような工藤と、「マジおバカちゃん」呼ばわりされたへっぽこ秘書良太の間には当分いちゃいちゃもへったくれもなさそうだ。
 つきあい始めた頃、というか、なし崩し的にそういう関係になって、良太が工藤に告った頃などは、忙しい合間をぬって、仕事中だというのに工藤が極めて不埒な行為を仕掛けてきたことも二回や三回ではない。
 なのに今現在、そのそっけなさときたら。
 釣った魚にえさはやらない、ってのを地でいく男だということは、下柳にもさんざ聞かされている。
 もっとも工藤の場合、釣ろうとしなくても女は寄ってくるのだから、良太としては心穏やかではない。
 局アナの室井のようにそれを知っていてあからさまに工藤に言い寄ってくる女もいる。
 寄るな触るな、工藤は俺と付き合ってんだぞー、なんて言ってしまいたくなることもある。
 でも悲しいかな、男である良太はおいそれとそんなことを口にするわけにもいかない。
 第一、付き合っているなんていえるのか? という疑問すら良太にはある。
 大事にされていると思ったことはあるものの、どこぞでうまくやってるんじゃなかろうか、という心配はどうしても払しょくできない。
「くそぉ、浮気してやる!」
 なんて口にしてみても、できっこないことは自分が一番よくわかっているのだ。
 どうしたって工藤と自分は対等ではないのだし。
 より好きな方が負けってやつ。
「ちぇ、企画書早くあげちまって、ビール飲みながら、大リーグ観るぞ!」
 鈴木さんが良太の大きな独り言を聞きつけて笑った。 
 
 

 


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