ACT 2
日曜日は朝からすっきり晴れ上がり、絶好の初釜日和というところだろうか。
空気が冷たいせいか一層清清しい青空を車の窓越しに見ながら、もう一本煙草をくわえようとして、工藤はやめた。
「あのバカ、まさか寝てるんじゃないだろうな」
待ち合わせは十時、会社の駐車場、そういっておいたはずだが、既に十五分が過ぎている。
工藤は車を降りると、エレベーターに向かった。
その頃、良太はスーツ選びに頭を悩ませていた。
新年早々工藤のお供で行くからには、工藤に恥をかかせられない。
それより少しでも引けをとりたくない、と朝から迷いに迷って、やっとスーツを決めたところである。
誰に引けをとりたくないかというと、小林千雪である。
初めから勝負はついているようなものだとわかってはいても、負けを認めてかかるのはしゃくではないか。
つるしのブランドものではなく、工藤が行きつけの紳士服店で良太にあつらえたスーツにした。
明るめの茶色は良太によく似合うと、知り合いのスタイリストにも言われた。
淡いピンクのピンストライプのシャツにタイはどれにしよう、とやっていたら、チャイムが鳴った。
「俺だ」
工藤の声に、良太はドアを開けにいく。
「何やってるんだ」
工藤はベッドに散乱しているスーツやタイを見回す。
「お茶会なんて、何着ていったらいいかわからなくて」
チャコールグレイのスーツに薄いブルーのシャツ、ブルーのタイを今日も紳士然と着こなした工藤は、良太の手からオリーブグリーンのタイをとる。
「これでいい。そうしゃっちょこ張る必要はないぞ」
「だって、千雪さんとかもいるし……」
「何だって?」
良太が口の中でもぞもぞ言ったのは工藤にはよく聞こえなかったらしい。
「いえ、あの、すぐ行きますから…」
車で待っててくれというつもりだったが、慌てているのでタイがうまく結べない。
工藤は見ていられずに、タイを結びなおしてやる。
そんな時、恥ずかしそうにしている良太は案外可愛いのだが。
ナータンが、一緒に遊んで、と言うように、ナーンと鳴いて良太と工藤の足元にじゃれている。
「あ、毛がついちゃいますよ」
工藤はしかし気にすることもなく、良太のタイを結び終えると、「行くぞ」とドアに向かう。
良太はカフスをとめながら、慌てて後に続いた。
番町の一角に広大な敷地を占め、東洋グループ会長綾小路大長の屋敷があった。
ぐるりと高い塀が延々と囲み、さらに生い茂る雑木林のせいで外からは中の様子を窺い知ることは勿論できない。
正門の前で車を停めると、工藤はドアフォンで来訪を告げた。
工藤が運転席に戻ると同時に門がスーッと開く。
玄関に続く道の両側には、どちらかというと日本庭園というよりは、樹木に囲まれた庭が広がっている。
車はゆっくりと邸宅の玄関前に進む。
「お待ちいたしておりました、工藤様」
「あけましておめでとうございます。お邪魔いたします、藤原さん」
工藤と良太が車を降りると、老齢の男が髪の薄い頭を下げた。
あれって、執事っての? おもしれぇ、今時いるんだ。
手土産にした高級ブランデーや千両屋で良太が買わされた、生きているうちに自分で買って食することがあるだろうかというような高級メロンやマンゴーなどの入った包みを工藤が藤原に渡しているうち、良太は珍しそうにそっとあたりを見回してみる。
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