「おどかすなよ、涼」
「さっきからずっと、千雪のこと見てるからさ」
「え、そりゃ……あれだけ美人ってそういないよな。けど女性っぽいわけじゃないし、小説書く法律の先生で、やることなすことカッコいいときてる。言うことなしだよな」
やけくそ気味に、良太は言い放つ。
「ああ、でも、すごい毒舌家だぜ? あの京兄貴と千雪って割れ鍋に綴じ蓋ってとこ? アスカもさ、わかってるんだよ、きっと」
「そんなの、アスカさん、せつなくないか?」
「うん、そうだねぇ」
のほほんと微笑む涼に、良太はそれ以上言葉を重ねることはできなかった。
だって、想いは消すことはできないじゃないか。
どうしようもない想いは、ひとり、ただ抱いているだけでしかないとしても。
俺はアスカや工藤のように、想う人を端で見守ることなんか、できるだろうか。
そんなにできた人間じゃない。
傍にいたい。
―――――――――――だけどな。
帰りの車内は妙に静まり返っていた。
良太がほとんど口を開かないからだ。
「メシ、食いに行くか」
覇気のない良太の横顔を見やり、工藤はなるべくやんわりと言葉を選ぶ。
車窓から見える街は既に灯りが渦を巻き、対向車のヘッドライトに良太は目を眇める。
「いえ、俺、今日はもう腹いっぱいなんで」
良太はきっぱり口にする。
「懐石なんか、食ったうちに入らないだろう」
「今日は、帰ります」
「慣れないことをしたんで、疲れたか。まあ、ああいうのもたまにはいいだろう。ああ、明日の松山電気とのゴルフは流れたし、小笠原の方は俺が行くからいいぞ」
翌日、良太はイベントに出演する小笠原に同行することになっていた。
ただでさえタレントの世話など疲れるものだ。
しかも小笠原はなかなかしたたかそうな男だ。
千雪に言われるまでもなく、良太に押しつけるわけには行くまい。
「え、でも……」
工藤だって疲れているのに、と良太は思う。
「明日はゆっくり休め。俺もやつがどんな仕事をするのか、自分で見ておきたい」
「わかりました…」
そんなに俺って信用ないんだ。
今の良太には工藤の配慮も言葉そのままに受け取ることができない。
ふてくされた返事が工藤も気にかかる。
また沈黙のまま車は会社の裏口に到着する。
「……お疲れ様でした。今日はありがとうございました」
らしくもなくよそよそしい良太の態度に、工藤は眉を顰めた。
シートベルトをはずし、車から降りようとした良太の肩を、工藤の手が掴む。
「何か気に触ることがあるのなら、言えばいい。いつもならブツブツ文句を言うくせに、むすっとしているだけじゃ、わからないだろうが」
「文句なんか…」
いきなり工藤に詰め寄られて、良太は唇を噛む。
そんなの、俺が言ったって、どうかなるってのかよ。
人の気持ちなんて、はい、そうですか、って変わるもんじゃないだろう。
「いいか、前にも言ったが、ドラマだろうが、なんだろうが、お前がやりたければやればいい。それならそれで、俺はお前をいくらでも後押しする」
「そんなこと、考えてません!」
見当違いのことを口にする工藤に、良太は声を上げる。
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