清風12

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     ACT 3
   
 
 離れの傍らにある茶室には、五人ずつに分かれてにじり口から入る。
 古い日本庭園をマルローに案内していた大長や佐保子、工藤と京助の五人は後になった。
 炉にかけられた釜の湯からはしゅんしゅんという音が静かな空気を揺らす。
 一緒に入った涼や千雪の見よう見まねで、良太も小夜子が点ててくれるお茶を飲む。
 菓子は千雪の友人の和菓子職人の作だと、小夜子が説明してくれる。
 味噌あん仕立ての花びら餅は甘く煮たゴボウが美味だ。
 お茶の香りが何とも芳しく、この空間だけが不思議な静寂に包まれている。
 アスカが正客として、茶碗や茶入れ、茶杓など道具の説明などをもとめ、小夜子がそれについて答える。
 どろっとした濃茶も苦いばかりではない美味しさがあるのだと、良太は改めて思う。
 心地よいひとときが、そこにいる者たちをしばし外の世界から隔絶させる。
「……広瀬さんってば」
「へ?」
 はっと気づくと、大が良太の顔を覗き込んでいる。
 茶室を出てぼんやりしていたが、外はまばゆいばかりの快晴だ。
「プロデュースの仕事ってどんなことやるの?」
 高校生にしては大人びた外見をしているが、口を開くとやはり年相応に違いない。
「あ、ああ、俺はまだ駆け出しで、そんな仕事らしい仕事はしてないんだけど、今やっているのは、スポーツニュースの番組で、『パワスポ』って知ってる?」
「見てるよ、いつも。あれ、広瀬さんがやったの?」
 尊敬の眼差しで見られると、良太も照れくさい。
「いや、俺がやった、とかじゃなくて、ディレクターさんとか、ライターさんとか、たくさんの人と一緒に作っていくわけで」
 しばらく大とテレビの仕事談義をしているうちに、マルローたちの席も終わったようだ。
 マルローは茶室を出てからも、小夜子にあれこれ説明をもとめては、オーバーアクションでいちいち感激を表していた。
 
   
 
 
 リビングでみんながくつろぐ頃には、陽がそろそろ傾きかけていた。
 京助がパイを、千雪と大がカップやポットをトレーに載せて運んできて、みんなに振舞った。
「そういえば、工藤さん、さっきアスカさんから聞いたんやけど、やっぱり、小笠原裕二、青山プロダクションに移籍するんですか?」
 千雪からカップを渡された工藤は苦々しい顔で頷いた。
「いろいろ脅してみたが、本人はやる気はあるらしい」
「また、わざと組の話なんかしたんやないですか?」
 千雪が笑う。
「事実だからな。ちょっとやらせてみてようすを見るさ」
「でも、またマネージャーとか探さなあかんし、良太をあんまりこき使わんといてくださいよ」
 千雪が言うのに、工藤は苦笑した。
「もう、堅苦しいお作法は抜きでごゆっくりなさいませね。パイは京助さんが焼いたんですのよ」
 小夜子は良太が今まで出会った女性の中で一番素敵な女性だと思う。
 でも、千雪はやっぱりひどく魅力的だ。
 特にあんな風に微笑を向けられたら、誰だって。
 んで、工藤さんなんか、あ~んな優しそうな目で仲よさそうにさ。
 千雪と工藤が楽しげに言葉を交わしているのを、良太はじっと見ていた。
「そーんなに、千雪さんが気になる?」
 背後からこそっと囁かれて、良太はドキリとする。

 


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