清風11

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「お前もでけぇな。お手」
 良太がちょっとかがんで手のひらを出すと、犬はバフッと片方の手の載せる。
「ロージィは甘えん坊なんだよ」
「だな~、俺んちにも、猫一匹いるんだけど、甘やかしてるな~俺も」
「かわいがってるんだ? 良太の家はどこだっけ?」
「俺はもともと川崎の生まれなんだけど、うち家業がだめんなってさ、親は熱海で妹は静岡、俺は社長に会社の上の部屋貸してもらってるんだ」
「乃木坂の? じゃ、通勤しなくていいじゃないか」
「それだけは助かる」
 良太は笑う。
「これだけ敷地があれば、俺、フィールド作るな、野球できるじゃん」
「なるほど~、そういう意見は面白いな~」
 涼は腕組みをしてまじめに頷く。
 リビングに戻ると、千雪とアスカ、それに大と京助は、また何やら言い合っていた。
「あいつらのことは気にしなくてもいいよ。顔を合せるとああなんだ」
 良太の横で涼がクスリと笑う。
「アスカさんって、千雪さんに夢中なんだよな」
「そうそう、アスカと兄貴が千雪をとりあってる」
 良太が言うと、涼が軽く説明してくれる。
「あ、ああ、そっか」
「あれ、知ってるんだよね? 千雪と兄貴のこと」
 改めて聞かれて、良太は「まあ」と返事する。
「京兄貴とアスカはガキの頃から犬猿の仲だったから、半分レクリエーションみたいなもん?」
「はあ。でも、ここんちじゃ、京助さんと千雪さんって公認?」
「兄貴はそれこそあからさまに千雪を独占してるからね。小夜子さんも知ってるってより、京兄貴と千雪のお陰で紫紀兄貴と結婚したってとこ」
 小夜子の息子で四歳の芳紀と一歳のその妹雪乃は、この家の手伝いをしている若い女性に連れられて、たったさっき顔を見せていた。
 可愛い盛りだ。
「へえ、そうなんだ」
 良太にも自然と笑みが浮かぶ。
「両親にはとっくに京兄貴がぶちまけてるし、母もね、何も言わないけど何と言うかフラットなんだよ、考え方が。あの人は。京兄たちの実母じゃないからだけじゃなくて、俺のことにもあまり口は出さないし」
 涼はさらっと言った。
「え、そうなの?」
「あ、でも全然仲はいいんだよ。俺はニューヨークだし、紫紀兄貴もパリを拠点に、あちこち飛び回ってるだろ? 京兄貴ひとりで父母を気遣ってくれてる。口は悪いけど、そう悪人じゃないよ」
 涼の言葉をそのままとりたいところだけれど。
「いや、仕事でもしょっちゅう突っかかってくるやついるから、慣れてるし」
 良太はなるべく差しさわりのないような言い方をした。
「なるほど~。でも前は、千雪に工藤さんも絡んじゃってたから、京兄貴も目の敵にしてたからじゃないのかな?」
 淡々と口にする涼だが、途端、良太は胸がぎゅうっと掴まれるような気がした。
「そっか……。やっぱ、工藤さん、千雪さんのこと、今も好きなんだよな…」
 段々良太の言葉にも力がなくなってくる。
「え、まあ、そうかもな。でも工藤さんは大人だし、いろいろいるみたいだからさ。工藤さんとは顔を合せればああだけど、京兄貴、工藤さんのこと、あれで一目も二目も置いてるんだよ」
 爽やかに晴れ渡った空とは対象的に、今にも雨の降りそうに、どんより曇り始めた良太の心には、涼のフォローは何の役にも立たなかった。
  

 


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