清風10

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「ユキだってさ、どうせ見ている人には小林千雪だなんてわかんないんだから、映画とか出てみればって、言ってるのに」
「何で俺に振るんや、俺に演技なんかできるわけないやろ」
 アスカのセリフでいきなり話が別の方向に飛んでいる。
「だって、あの工藤さん直々に、やってみないか、なんて言わせる人なんて後にも先にも、ユキくらいよ」
 うわ~、アスカさん、それ、俺の前で言うなよ~
 心の中で良太は懇願する。
「フン、こいつにできるわけないだろうが」
 京助が断言する。
「でも、ちぃ兄ぃなら、演技しなくても、そのままで絵になりそうだよね~」
 大の言葉が、良太の心にまたビシビシ響く。
 そうか、やっぱね~。
 千雪さんを誘ったとは聞いていたけど、そうだよな~、俺には、今の京助の言葉そのまま言ったくせに、千雪さんには、やってみないか、か。
 鬼の工藤がそこまで思いいれてたわけだ、やっぱ。
「足、きつい? 崩してもいいよ」
 急にうつむき加減に焼き物を箸でつついていた良太を涼が気遣う。
「は、いや、大丈夫…」
 良太はやせ我慢でそう答えたが、膳が終わる頃になると、正座がかなりきつくなってきていた。
 マルローはついに足を崩していたが、他の面々がきちんと正座しているのに、自分だけ崩すわけにはいかない。
 千雪など、涼しい顔をしている。
 ああ、あの人剣道やってたんだっけ。
 また、こんなとこでも差が……。
「おそまつさまでした。お茶を差し上げるまで、あちらでおくつろぎくださいませ」
 小夜子の挨拶で、懐石の方がやっと終わると、座敷を出て皆がまたリビングに移動する。
 どんより重い気分を抱えた良太に、「足がしびれたか」なんて工藤が声をかけてくる。
 人の気も知らないで。
「平気です」
 つい、そっけない答えを返した良太は、傍らの涼に話しかけた。
「涼って、ボストンH大なんだ? カッコいいな」
「かっこよくなんかないよ。それより、俺はクリエイティブな仕事をしている人って尊敬するな」
 すっかりタメ口で意気投合している二人を傍で見やり、工藤は苦笑する。
 ガキはガキ同士の方が話が合うらしい。
 良太がタレントの仕事をやるのを俺が許さないと思って、良太は懸命にその気がないのだとアピールしている。
 俺にもそう断言はしたが…
 アスカのいうように、別にこの仕事しかできない、というわけではない。
 望まれて、本人もやる気があるならタレントの仕事もできない理由は良太にはないのだ。
 俺の顔色を窺う必要などどこにもない。
 ただ俺が面白くないだけの話だ。
 フン、あいつを育ててやらなくてはならないのに、俺が足を引っ張っていてどうする。
 工藤は工藤で自分の狭量さに苛立つばかりだ。
 マルローが何だかだと話しかけてくるのだが、工藤は適当に相槌をうちながら、そんなことを考えていた。
「へえ、あっちが紫紀さんと小夜子さんのうちで、向こうにも離れがあるのかぁ。広いな~、こんな東京のど真ん中なのに」
「戦前からご先祖が持ってた土地があるからじゃない?」
 リビングから良太を連れ出して、涼が敷地内を少し案内してくれた。
 どこからかシェパードが走ってきて、涼や良太の傍で遊んでくれとばかりに尻尾を振っていたが、ちょこなんと二人の前に座る。
 


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