清風9

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 席に着く前に涼がみんなに良太を紹介してくれたところによると、向かい合って一番端に座っている和服姿の老齢の大きな紳士が、彼の父、つまり東洋グループ会長だ。
 お偉方の頂点にいる人には違いない。
 その右隣が彼の母、佐保子で、上品で静かな女性である。
 左隣がアスカの祖父で、洋画家の中川幾馬だ。
 末席が京助で、その向かいに座る一番若い少年が、今はここにいない小夜子の夫、次期東洋グループ総帥と言われる紫紀と彼の前妻との間に生まれた大だ。
 京助によく似ているが、大らかそうだし、性格は良さそうだ。
 亭主の小夜子が挨拶し、杯に酒が配られると、皆が箸をとった。
 工藤はマルローや大長、佐保子、その隣に座る中川らと歓談していた。
 アスカは時々右隣にいる千雪と笑ったりしているのだが、千雪の笑顔に思わず目を奪われてしまい、良太は慌ててご飯を口に運んだ。
 ご飯に味噌汁、ついている刺身はお向こうという、涼は親切に良太に教えてくれる。
 やがて煮物椀を亭主の小夜子が運んできた。
 そして焼き物、揚げ物と続く。
「そういえば、和泉さん、じゃなくて広瀬さん、俺のクラスでも女子に人気あるんですよ、SNSで見ましたCM」
 高校生だという大から、和やかさに忘れていたその話題が出て、良太はちょっと顔を引きつらせる。
「いや、あれは、ほんの代役で~」
「だって、女の子すげえ騒いでたし、きっとビッグになると思うな」
 うう~、その話題はやめてくれ~
「そうよねぇ、なかなか可愛いし、今はヘタでもやってればいやでもうまくなるわよ」
 アスカまでが余計な口を挟む。
「せっかく人気出たのに、やらないなんてもったいないわよ。そうなりたくてもなれない人だっているのに」
 これ以上、工藤との間に波風立てたくないんだってば!
 良太は目でもうやめろと訴えるのだが、アスカはおかまいなしだ。
「ちぃ兄ぃの映画とかドラマに出たらいいじゃん」
 大は叔父である京助や涼を京兄ぃ、涼兄ぃ、と呼ぶように、千雪をちぃ兄ぃと呼んでいる。
「とんでもない、俺なんて、そんな」
「やめとけ、やめとけ、志村嘉人なんかと比べられて、プレッシャーに潰されるのが落ちだ」
 あんたに言われたくない、とは思うが、今の状況では京助の台詞は良太にとってはありがたい。
「良太はそないなことくらいで潰されるほど肝は小そうないで」
 思わぬところで、千雪が良太を弁明する。
「やってみな、わかれへんわ」
「そうよ、京助なんかに、良太のセンスのよさなんて、わかりっこないわよ」
 アスカが断言する。
「センスだ? お前とどっこいどっこいじゃ、たかが知れてるってもんだ」
 良太のことを調度いい口争いのネタにして言い合っている彼らも彼らだが、工藤は相変わらずマルローや大長と話を交わしていて、こちらの話には知らん振りだ。
「本人のやる気次第だと思うけど? ね」
 涼の発言で、良太に視線が一斉に注がれる。
「いや、俺、プロデュースの仕事をさせてもらいたいと思っているんです。あれはあれで勉強になりましたけど」
「今時、これしかない、なんて流行らないわよ。堅苦しく考えないで、たまにやればいいのよ」
 アスカが言うのもわかるのだが。

 


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