「俺はとにかく、今の仕事をもっとやっていきたい、それだけです。失礼します!」
工藤の手を振り切って、車から飛び出していった。
「くそ、いったい、何だって言うんだ!」
煮え切らない。
何か口元まで出掛かっているくせに、疑わしげな目を向けやがって、あのヤロー!。
しばし車をそこに車を停めたまま、工藤は煙草を一本くわえた。
まあいい、今日のところはゆっくり休ませてやるか。
苦々しげに火のついてない煙草を噛んでいたが、やがてエンジンをかけると、高輪へとハンドルをきった。
携帯が鳴っているのに気づいて、良太は目が覚めた。
帰ってきてからナータンにご飯をやり、自分は缶ビールを飲みながらテレビを見ていてそのままうとうとしていたらしい。
携帯を手に取ったときには、もう切れていた。
「涼?」
着信履歴を見ると、涼、と出ている。
心そぞろで出てきたので、携帯の番号を交換した涼にも今度飲みに行こうと誘われたが、曖昧に頷いただけだ。
ちょっと今はかけなおす気にはならない。
「シャワー浴びて、寝ちまお…」
ベッドに放り出しただけの上着や、首にまだ引っかかっていたタイを取ってハンガーにかけ、良太はバスルームに向かった。
「出ないよ…困ったな」
良太の携帯を鳴らしていた当の綾小路涼は、ため息交じりに呟いた。
綾小路家の居間では、涼の他に絨毯の上に寝そべっているロージィ、それに客がいた時はどこかに隠れていたアメリカンショートヘアのマイケルがソファで毛づくろいをしているだけだ。
京助や千雪もたった今帰ったところだ。
三人で少しばかり酒を飲んでいたのだが、帰り支度を始めた千雪が誰に言うでもなく、ぼそりと口にしたことが問題だった。
「やっぱ、俺、今日けぇへん方がよかったかな~」
「え、何で?」
涼が聞き返すと、
「良太にようけ睨まれてた気がするし…」
と言う。
「あのガキ、生意気に。お前より俺だろ、睨んでたのは。ほっとけ、ほっとけ」
京助のほざきは無視して、涼は千雪に尋ねた。
「どういうこと? 良太、千雪のこと、えらく感心してたけど……何か、あるの?」
「いや……ちょっと」
「気になるじゃん、教えろよ」
涼はさっきから直感的にやばい、と感じている。
「良太、工藤さんのことで、俺のこと敵対視してんねん」
「…………って……どういうことさ?」
「工藤さん、良太のこと、ほんまに大事に思うてはるねんけど、良太は誤解してるんや、俺のこと」
「誤解じゃねーだろ。事実だ」
京助が混ぜっ返す。
「うるさいな、お前に言われたかないわ。事の発端はお前なんやからな」
千雪の切り返しに、京助は一瞬ひるむ。
「いつまでもそんな大昔のことを掘り返すな! 第一、工藤のやつ、未だにお前に入れ込んでるじゃねーか」
「お互い仕事ってだけや」
「仕事が聞いて呆れる。あのやろう、仕事を隠れ蓑になんだかだとお前にちょっかいかけやがって」
「心根がまっさらやないやつほど勝手なファインダーかけんと物事見られへんのや」
「何だと? てめ、言うにことかいて………」
毎度の痴話げんかにつきあう気はもうとうなかったが。
彼らが帰った後で、涼は慌てて良太の携帯を呼び出してみたのだが、応答はなく、仕方ないので至急連絡が欲しい旨をメッセージに残した。
「参ったな~、まさかそんなこととは。俺、バカなこと言っちゃったよ。だから、段々元気なくなってたんだ」
後悔先に立たず、真夜中十二時まで待ったが、良太からの連絡はなく、涼は傷はできるだけ浅いうちに、と再び電話を取った。
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