ひまわり(将清×優作)26

back  next  top  Novels


「ああでも、俺、今夜が東京デビューっつうか、肩慣らしっつうか、名古屋とか大阪とかでライブやったことはあんだけど」
 腕組みをしたまま元気がそう答える。
「そうなんだ」
 頷いたものの、優作には今一つピンとこない。
「そうだ、佐野も来るって言ってたぞ。あいつ、ロック好きなんだって」
 へえ、いかにもなおぼっちゃまで、マジメそうなのに。
 いや、バンドやるヤツがマジメじゃないとか優作も思っているわけではないが、大騒ぎする連中の中で、一人ノーブルな服装で静かに笑っているのが佐野だ。
「俺らは、次の次だから」
 その時、元気の携帯が鳴って、「おう、優作と佐野が来てくれたんだけど、他に誰もきてくれねーから来いよ。ダッシュだぞ!」と元気は相手に念を押してから切った。
「そういや、お前、M市だって? お隣りさんじゃね? 俺、T市だから」
 元気が意外なことを言う。
「え、マジ? 俺てっきり、東京人かと思ってた」
 元気がまさかと思っていた優作にも多少の近親感が湧いてくるというものだ。
「田舎もん同士、仲良くしてよん?」
 ただ、そんなきれいな笑顔を向けられると、相手が男とわかっていてもドキリとしてしまう。
「あ、ここにいたのか」
 相変わらずマイペースな様子でトイレの方からやってきたのは、シャツの上にジャケットを羽織り、チノパンにローファー、いつも通りの佐野だ。
「あ、優作くん、よかった、連れがいて。楽しみだね、元気のギター」
「あ、ああ」
 優作は適当な返事をする。
 そういえば、俺がひっくり返ったあの日、元気がやってきてギターを弾いたとか何とか、将清が言ってたな。
 そんなにうまいのか?
「あと一人、来てくれるって。佐野、優作のこと頼むわ。俺、そろそろスタンバっとかないと」
 元気が楽屋の方に行ってすぐだった。
 いきなり爆発的な音の嵐に見舞われて、優作は思わず固まった。
 って、この中で、どうやって言葉なんか交わすんだよ!
 ボーカルが何かがなっているが何を言ってるのかさっぱりわからない。
「このバンド、うまいね。俺、ギターがどうとかは詳しくないけど、こういう曲も好きなんだ」
 佐野が優作の耳元で声を大にして言った。
 正直、初めてこの手の音を聞いた優作には、地を這うように重くて激しい音の羅列が、何がいいのか不思議ですらあった。
 え……、まさか、元気もこういう系?
 せいぜい高校の学祭で聞いたくらいで、無論ヘタクソバンドだったが、優作には少なくともそっちの方が何を言ってるか歌詞くらいはわかったから、クソミソにけなしてむしろ悪かったと思ったくらいだ。
 二曲目を聞いても三曲目を聞いても、その音に慣れることはなく、四曲目でラストとなった時、優作はつい溜息をついた。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます