ひまわり(将清×優作)27

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「ゴメン、俺、この手の音楽はちょっとカンベン。何言ってるかわかんねーし」
 今のバンドが引っ込んでから、普通に会話ができるようになると、優作はボソリと佐野に言った。
「そっか。まあ、でも元気のはきっと大丈夫だよ。昔の曲だけど、歌詞、わかるタイプの曲だと思う。すごいうまいんだよギター、元気って。プロはだしって感じ?」
「そうなのか?」
 力説する佐野の言葉がまんざら誇張でもなかったことは、元気が音を鳴らし始めてすぐ、ロックなどに疎い優作にもよくわかった。
 憂いを含んだバラード、一平の低い声が英語の歌詞を紡いでいく。
 元気のギターは、まるで一平と会話をしているかのように掛け合い、時に濡れたような音を響かせ、会場を圧倒している。
 先ほどのバンドとは打って変わって、場内は聞き入っているという感じだ。
「すっげ、ギター、元気、何者?」
 唐突に上から降ってきた声に、優作が顔を上げると、隣にいつの間にか将清が立っていた。
「Since I’ve Been Loving You って、古いUKバンドの名曲。ここまでやられると、本家顔負けじゃね?」
「え……、ああ何か、意味はあんまわかんねぇけど、こう、ぐってくるよな」
 思わず優作も胸に響いてくる何かを口にしたくなってしまう。
「おう……、一平もあの声であの曲、ってのもありなんだな」
 将清とはものすごく久々に話した気がしたが、元気のギターのお陰なのか、別にわだかまりもなく言葉が出てきた。
 あれ以来、優作は意地で将清たちから離れていたし、ゴールデンウイークに突入してしまったから、もう将清ともこれっきりなんだろうな、と思っていた。
 実際、あとで考えてみたら、世話をかけて泊めてもらって朝ごはんまで作ってもらって、お前らとはもう関係ないとか、ないよな、と。
 でも自分から声をかける勇気も、優作にはなかったのだ。
「おいおい、Going down slow、渋すぎねーか? いや、やっぱすげえって元気」
 将清は曲を知っているようだったが、知らなくても胸のど真ん中に直接くるようなギターの音は優作をぐいぐい引き込んでいく。
 最後の曲、Brown sugar は前の二曲とはまた違い、身体が勝手に動き出すような曲で、場内は沸きに沸いた。
「やっぱすごいね、元気のギターって。絶対プロになるべきだよ」
 興奮気味に佐野が言った。
「だな。まあ、バンド組むつもりらしいけどな、あいつら」
 元気たちが終わると、将清は佐野と優作を促してライブハウスを出た。
 元気には終わったら外で待っているからと約束してあったようだ。
 元気らの曲はよかったが、次にまたあの爆音の洪水を聞かされるかと思うと、優作も早く外に出たかった。
「確かに。俺、ロックとか疎いけど、元気のギター、ただ者じゃないよな、あれ」
 佐野の興奮が移ったかのように、優作は言った。
「鈴木とすごく呼応しているっていうか、よくあってるよね」
 佐野がうんうんと頷く。
「鈴木?」
 優作は聞き返す。

 


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