ひまわり(将清×優作)46

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「ほんとに、今夜、平気だったのか? 突然誘っちまって、俺」
 元気は八時頃、今夜の晩飯に作ったんだが、とロールキャベツをタッパに持参して、ホテルの部屋にやってきた。
「ルームサービス、取ったから。一本じゃ足りないだろうと思ってワインも」
「リッチじゃん。どうしたの?」
 元気は目を丸くして、優作を見た。
「こないだ、泊めてもらったし、部屋が狭いと落ち着かないだろ」
 ワゴンには、もう一本ワインが氷の中に入っている。
 ローストビーフやサンドイッチをテーブルに移し、グラスを用意する。
 優作がワインのコルクを抜いて、グラスにルビー色の液体を注ぐ。
「キャンティ、お前好きだよな」
「うん」
 元気が笑う。
 不意に、優作は思い出したことがあった。
 以前、ミドリが、元気が心配だ、と言っていた。
 ミドリには元気の何かが見えていたのかもしれない。
 現に、こうしてバンドを脱退して田舎に引きこもってしまった。
 父親が亡くなったこともあったかもしれないが、それだけではない気がする。
 だが、今さら優作がそれを聞いてどうなるというのだろう。
 こうして、サバサバと笑う元気にしてみれば、もう思い出したくもない昔のことなのかもしれない。
 でなければ、まるで天職だとしか思えなかったギターをやめて、元気がこんなところにいるはずがない。
 俺が聞いたところで元気は答えをくれるとは思えないし、触れられたくないことなのかも知れない。
 優作には、実際それを元気に問う勇気がなかった。
 乾杯して、しばらく食べることに専念した。
 それからふと間があった。
「で?」
 徐に元気が口を開く。
「え?」
 優作は問い返す。
「え、じゃないだろ。その見合いの相手と、お前付き合ってるわけ? 今も」
 元気はいきなり核心に触れてきた。
「将清に聞いたんだ?」
 へらっと笑って優作はグラスのワインを飲み干した。
「お前、あれから報告なしだし」
「…付き合ってなんかいないよ。あの後すぐ、親から電話で、彼女はどうも乗り気じゃないらしいからって…」
 元気の文句に、ぼそぼそと言葉は尻すぼみになる。
「じゃ何で、将清に、付き合ってみるなんて言ったんだよ!」
 いつになく語気も荒く元気が訊いた。
「ちょっとした見栄だろ? だってさ…、将清のやつ、社長の娘かなんかと付き合ってるらしくて。結婚、するらしいし」
「結婚するらしいって、将清にちゃんと確かめたのかよ?」
「いや。最近はあんまり会ってない。忙しいんじゃないの? その彼女のお相手で」
 既に優作は二本目のワインのコルクを抜いている。
 そんなに強くもないくせにピッチが速すぎる。

 


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