うろこ雲が広がったさわやかな秋空がすがすがしい。
秋祭りも近いようだ。
ギリギリにホテルの朝食を済ませてチェックアウトを済ませ、十一時も過ぎた頃、伽藍に寄ると、元気はいつもの穏やかな笑顔で迎え、カウンターに座った二人に熱いコーヒーをいれてくれた。
できればこのまませめて二、三日のんびりしたいところだったが、将清は仕事の合間を縫って飛んで来たらしい。
これから帰っても即編集部に直行で、日曜も休日出勤は免れないという。
「なーんか、お前ら、一件落着ってな顔ですっきりしちゃってんな」
フンと鼻で笑って元気が揶揄するので、優作はカッと頭が熱くなる。
「元気のお陰様様ってとこ?」
将清の方はニカニカと悪びれる様子もない。
「イチャイチャして運転あやまるなよな」
クールな顔で元気に送り出され、秋深い雄大な自然の中、優作は将清の車のナビシートに収まった。
「そういえば、うちの親が珍しくクリスマス辺りに日本に来るらしくて。せっかくだから兄貴一家や弟も呼んでパーティやろうって言ってるから、お前も俺んち行こうぜ」
優作は愛車のハンドルを握る将清をチラリと横目に見やる。
「俺? って、家族の集まりなんだろ? 俺なんか行っていいのかよ」
将清の家族に会うとなると、学生の時以来だ。
「俺なんか、とか今度言ったら、罰金千円。親が、お前も絶対連れて来いってから」
似たようなこと、前にミドリにも言われたな。
「何、勝手に決めてんなよ」
将清との関わりを考えると、優作としては、ほいほい自分が顔を出してもいいのかと思ってしまう。
「前に一度、うち来ただろ? あれ以来、俺の恋人をまた連れて来いってうるさいからさ」
俺の……
「恋人っつったか、お前?!」
優作は将清を振り返る。
「ああ、あの時もうとっくにそう紹介してる」
一つ間違えばという断崖絶壁の山道を走る車を運転している将清の頭をはたくのは自分にも不都合になるため、優作は拳を握りしめてぐっとこらえる。
「あ、そういや、お前の姉さんにアパートで前に会った時、俺ら見て即、ピンときたって言われたから、はい、これからもよろしく、っつっといた。ほら、上の姉さん?」
一瞬、その言葉が何を意味するのか、優作は測りかねた。
「はああああ????!」
一体全体、俺がくどくど悩んできたことって、一体全体………。
だから見合いするって電話した時、姉さん、ムリにしなくてもいいとか、どうせ母さんが世話焼きオバサンに押し切られただけだからバックレてもいいとかって、言ってたのか。
「すげえ、心洗われるってこのことだよな、深い紅葉!」
「よそ見するな! ハンドル握れ!」
能天気な隣の男はへらへら笑っている。
『百年後には平凡だろうと何だろうと、てーんで関係なくなってんだぜ?』
その時、酔っててうろ覚えだったが、元気のそんな言葉が快い重みをもって優作の心の中に蘇った。
- おわり -
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