朝起きると、居間のソファだった。
タオルケットが掛けられている。
どうやらあのまま酔って眠り込んでしまったらしい。
「起きたか? 朝飯、どうする?」
リュウの散歩に行ってきたばかりのようで、元気はリュウの足を拭いていた。
中庭には犬小屋があるが、いつも元気はそうやってリュウを家にあげている。
「悪い、店、開けるんだろ」
既に壁の時計は九時を指している。
「いいよ。今日は午後からにする。どうせ紀子ちゃん、今日は休みだし。シャワー浴びてこいよ。タオル出してあるから」
「サンキュ」
シャワーを浴びてさっぱりした優作はそのまま縁側に出た。
通りに面している表側は周りに揃えて古い造りに見せているが、中に入れば現代的な住まいだ。
風鈴の音が涼しげな居間の戸も、小さな中庭を取り囲むように造られた縁側の戸も開け放たれ、夏の花が小さな池の周りに咲き乱れている。
その中央から威厳さえ窺わせる背の高い花が幾つも見下ろしていた。
向日葵だ。
降り注ぐ太陽の光を一身に受けて輝くように息づいている。
中でも一際大きな花が勇壮に咲き誇っていた。
花は誰からも信頼され、認められ、さらに尚高処を目指すある男を連想させた。
自分はその花を憧れをもって眺めている、ただそれだけだ。
それが現実だ。
「優作、飯、できた」
元気に呼ばれて行くと、キッチンのテーブルには、味噌汁に鰯の丸干し、卵焼き。それに漬物と暖かいご飯が並んでいる。
「うわ、豪勢」
「何が豪勢だ。ごく普通ってか、どっちかっつうと粗食だろーが」
「いやいや、俺のいつもの朝飯に比べれば。パン一枚と珈琲、それも食う時間があればいいほう」
「俺は自営だからな。リーマンは辛いね。俺が嫁に行ったげよか?」
鰯を丸齧りしながら元気がおどける。
「来て来て! そしたら一生飢えないですむ」
昨夜のカープ対ドラゴンズはドラゴンズが勝ったらしく、元気は上機嫌だ。
そして食後の珈琲がまた美味い。
「やっぱ嫁さん、いた方がいいかな」
「でも俺、まだ心の準備が…」
ポツリとこぼすと、元気がおちゃらかす。
「見合いしろって、親に言われてるんだ、実は」
家に帰りたくない理由はそれだった。
「見合い?」
「そう。明後日。うるさい親戚がいてさ。親も再三、言ってくるし。俺も彼女連れてくような甲斐性ないし」
すると、元気はふーっと息を吐く。
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