「散々、何だかだとぐちってた原因は、それか。そんなの簡単じゃん。気が合えば付き合えばいいし、合わなきゃなかったことにする」
「そう簡単にいくか。付き合うってことは結婚するってことだぞ。なかったことにするったって、よほどじゃなきゃ、男から断るったって…」
「お前、そしたら、断れないからって向こうがお前を気に入ったら結婚すんの?」
元気に突っ込まれて優作は言葉に詰まる。
「いや、そういうわけじゃ…」
「気が乗らないんなら、最初からやらない方がいいんじゃね?」
「いや…だから…俺も、そろそろ分相応の平凡な生活に入ろうかと思ってさ…見合いするって…」
「言ったのか?」
元気の口調が強くなる。
「お前さ、聞くけど、好きなやつとかもいないの?」
いきなり問われて、優作は戸惑う。
心に引っ掛かりがないとは言えない。
しかし、だからこその軌道修正なのだ。
「お前、自分がもてないみたいなことを言うけどさ、紀子ちゃんなんか、年末にお前にあってから、ずっと優作ファン? 優しくて素敵だって。そんなふうに女の子に言い寄られたことがないとは言わせないぜ?」
優しい顔はそこそこ可愛いし、一見柔な雰囲気だが、芯の強さに気付いて近付いてくる女の子がいたことはいた。
ただし、元気は優しくて素敵と言ったが、紀子が一番口にしていたのは、すんごく可愛い! だったのを、このキーワードを省いたのは、優作が可愛いと言われるのを嫌がっているとわかっていたからだが。
いずれにせよ、いつも将清との付き合いで優作は飽和状態だった。
「…いや、俺は…ダメなんだよ。女の子をうまくリードするとかできないし。気のきいた台詞ひとつ言えないし」
優作は元気の目をまともに見ることができなくて、もじもじと珈琲カップを玩ぶ。
「自然態だろ? 何もお前に要領よく演技しろなんて言わない。ま、いいけどさ。見合いしてみたって。人間、どこでどう転ぶかわからないもんな」
グッドラック。
優作は背中に元気のそんな言葉を受けて街を後にした。
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