「きれいなものは好きですから」
才能もさることながら、何ら臆することなくそう言ってのけた坂之上豪は、一九〇近い上背で鍛えられた体つき、大きくはっきりした目鼻だちや無精ひげさえ精悍さを引き立てる俳優ばりのマスクで、勝手に人気が出始めたのだ。
出版社、新聞社、スポンサーであるカメラ関係の企業の協賛による初めての写真展もこの十二月に予定されている。
仕事の都合で、年末の忙しい時期しかスケジュールがあいてなかったらしいが、同時に、彼個人の写真集も出版されることになっている。
以前、元気にとって大学の同窓でもある『GENKI』のメンバーが店に来てくれた時、豪が大学の後輩だという話が出て以来、そういった情報を、朝のワイドショーを欠かさず見るという紀子から元気は否が応でも聞かされていた。
「知り合いなのか? 豪」
しばし睨みつけるように元気と豪が見合っていたそこへ、連れの男が声をかける。
「あ……大学の先輩です」
「へえ、そうなの? 初めまして、私、フリーのライターで都築といいます。今回『ふろむゼロ』って雑誌で、豪さんと一緒にこの街を取材させてもらってます」
都築は元気に名刺を差し出した。
「今日は造り酒屋を何軒かまわったんですが」
「えっ、じゃあ、今朝きてたカメラマンって坂之上さんだったんですか?! 石井酒造って私のうちなんです」
間に割って入った紀子は、話している都築ではなく、豪を見上げて訴える。
「ああ、何百年とか続いているっていう?」
豪はにっこり笑う。
「そう! えー、知ってたら、あたし、うちにいたのにー!」
「どうぞ、お座りください。紀ちゃん、テーブルに案内して」
しきりと悔しがる紀子のおしゃべりを遮るように、元気は言った。
だが、「カウンターでいいですよね」と都築を促して、豪は元気の目の前に陣取った。
「今日はモカがお勧めです。でも、コーヒーも紅茶も元気のいれたのは何でもおいしいですよ」
