煙が目にしみる9

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 夢見が悪かったせいだな。
 元気は苦笑いして、ちょっと首を傾げる。
 あいつがこんなところにいるわけがないんだ。
 窓の外を見るとまた雪が降っていた。
 この冬は大雪になるかもしれないな。
 哀愁を帯びたサックスのメロディに同調させられたのか、妙に昔のことが頭をよぎる。
 消えやらない後ろめたさに心臓がじくじくと痛む。
 やがて窓際にいたカップルが帰ると、自宅で絵画教室を開いている東は夜の教室前に腹ごしらえだと帰っていった。
 今日は早く店を閉めよう。
 元気がそんなことを思った時、ドアが開いて、男の二人連れが入ってきた。
「うそ! 本物が出た!」
 最初に反応したのは紀子だ。
 怪訝そうに顔を上げた元気に、ぬぼっと立った大きな男が言った。
「お久しぶりです」
 予期しない状況に、元気はひどく狼狽えた。
 辛うじて落としそうになったカップを必要以上にきつく洗う。
「…いらっしゃいませ」
 そこに立っていたのは、未だに夢にまで現れて元気のイライラを募らせている男だった。
 坂之上豪。
 たったさっき、紀子たちが話題にしていた当の本人である。
 坂之上豪が若手カメラマンとして一躍脚光を浴びたのは、昨年のことだ。
恩師のカメラマン蒲生健吾が中東でテロに遭遇して亡くなり、同行していた豪が彼の仕事を引き継いだという経緯から、時を移さず報道番組に登場した。
 さらに豪の名を世に知らしめたのは、CM女王と言われる人気女優菊池みゆきの写真集である。蒲生の知り合いだったみゆきから直々にオファーを受けたという。当時は二人がつきあっている云々報道まで流れた。


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