煙が目にしみる13

back next  top  Novels


 二度と彼の笑顔を見られるとは思っていなかったから。
 逞しくなったのが外見だけではないことは、自信に満ちたその雰囲気からも窺える。
二年前の別れは、おそらく豪にとってはいい方向に向いたのだ。
彼の才能を伸ばし、活躍の場を広げたようだ。
豪はさらにこれからも高みへと飛躍することだろう。
「お先にぃ! 豪さん、絶対、またきてね! 約束だよ!」
「ああ、約束!」
 翌日はあと一軒取材したら東京に帰るのだと、豪から聞いた紀子は、名残惜しそうに店を出て行った。
 いつの間にかレコードの演奏は終わっていて、ビシビシと針の音だけが聴こえている。
 手持ち無沙汰になった元気はそれに気づいて、レコードをはずしてジャケットにしまった。
「何か、落ち着くなー、雪の降る夜に、こういうのって」
 ティーカップを置いて、豪がまた呑気に呟いた。
「でも、雪、すごい降ってきたな。そろそろホテルに戻らないと、帰れなくなったりしないかな」
 和んでいる豪に都築が心配そうな顔を向ける。
「え、これしき平気ですよ、積もる程でもないし」
 あくまでも豪は安直なことを言う。
「どちらにお泊りですか? タクシー呼びましょうか?」
 気を利かせた元気の言葉に、ちょっと豪は表情を曇らせるが、都築はAホテルだと答える。
「十分ほどで、すぐそこの通りまできてくれますから」
 電話でタクシーを呼ぶと、元気は二人にそう告げた。
「もう七時だ。そういや、腹、減ったね、どうする? ホテル戻る前に腹ごしらえする?」
 支払いを済ませた都築が豪に話しかけた。
「そうですね…」
「飛騨牛とか、思い切り食べたいって言ってたよね?」
「ええ」
「そういえば、昼に食べたラーメン、美味かったなー、あれ、土産にしようかな」
「はあ」
 タクシーを待っている間、都築はしきりと豪に話しかけるのだが、急に口数が少なくなった豪は曖昧な返事をしている。
「元気さん、どこかお勧めの店ってありますか? 夕べは奥飛騨温泉に泊って、豪勢な食事だったんですけどね」


back next  top  Novels