二度と彼の笑顔を見られるとは思っていなかったから。
逞しくなったのが外見だけではないことは、自信に満ちたその雰囲気からも窺える。
二年前の別れは、おそらく豪にとってはいい方向に向いたのだ。
彼の才能を伸ばし、活躍の場を広げたようだ。
豪はさらにこれからも高みへと飛躍することだろう。
「お先にぃ! 豪さん、絶対、またきてね! 約束だよ!」
「ああ、約束!」
翌日はあと一軒取材したら東京に帰るのだと、豪から聞いた紀子は、名残惜しそうに店を出て行った。
いつの間にかレコードの演奏は終わっていて、ビシビシと針の音だけが聴こえている。
手持ち無沙汰になった元気はそれに気づいて、レコードをはずしてジャケットにしまった。
「何か、落ち着くなー、雪の降る夜に、こういうのって」
ティーカップを置いて、豪がまた呑気に呟いた。
「でも、雪、すごい降ってきたな。そろそろホテルに戻らないと、帰れなくなったりしないかな」
和んでいる豪に都築が心配そうな顔を向ける。
「え、これしき平気ですよ、積もる程でもないし」
あくまでも豪は安直なことを言う。
「どちらにお泊りですか? タクシー呼びましょうか?」
気を利かせた元気の言葉に、ちょっと豪は表情を曇らせるが、都築はAホテルだと答える。
「十分ほどで、すぐそこの通りまできてくれますから」
電話でタクシーを呼ぶと、元気は二人にそう告げた。
「もう七時だ。そういや、腹、減ったね、どうする? ホテル戻る前に腹ごしらえする?」
支払いを済ませた都築が豪に話しかけた。
「そうですね…」
「飛騨牛とか、思い切り食べたいって言ってたよね?」
「ええ」
「そういえば、昼に食べたラーメン、美味かったなー、あれ、土産にしようかな」
「はあ」
タクシーを待っている間、都築はしきりと豪に話しかけるのだが、急に口数が少なくなった豪は曖昧な返事をしている。
「元気さん、どこかお勧めの店ってありますか? 夕べは奥飛騨温泉に泊って、豪勢な食事だったんですけどね」
