煙が目にしみる14

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 豪の反応がイマイチなので、都築はテーブルを拭いている元気に話しかけた。
「Aホテルなら、二十階に、美味い飛騨牛のステーキ、食べさせてくれる店が入っているはずですよ」
「へえ、そりゃよかった!」
「そろそろタクシーがきてるんじゃないですか」
都築は「ありがとう、お邪魔しました。気が変わったらまたご連絡ください」と元気に言い置いてドアを開けた。
先ほどまでの陽気さは嘘のようにおとなしく、豪は都築の後に続いた。
 その後ろ姿に目をやって、知らず知らず元気はテーブルを拭く手を止め、一つ息を吐く。
 その直後、閉まったと思ったドアが再び開くと、豪がまた顔を覗かせた。
 元気はその不意打ちに息を呑んだ。
「あのさ」
 遠慮がちに豪が口を開く。
「……何だ?」
 ぶっきらぼうに元気は聞き返した。
「今度、作品展、やるんだ、青山で。もし…、時間あったらきてくれよ。これ、チラシ」
 豪はテーブルの上にクシャッと折りたたんだものを置くと、まだ何か言いたげにしばし佇んでいたがやがて出て行った。
 途端、元気は急速に脱力感に襲われる。
 動こうとして、身体が動かない。
 わずか数十分の再会の後で、自分では対処できないほどのやりきれない思いが、元気の全身を満たしてしまったようだ。
「なんだっていうんだ……こんな…」
 社会的にもその存在を知らしめた豪は、とっくに自分の手の届かないところに行ってしまったのだと思い知らされる。
「だからよかったじゃないか?」
 険悪な再会にならなくて。
 元気は自分を納得させるように呟いた。


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