煙が目にしみる16

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「すんげく、カッコよかった!」
 少年のように頬を高潮させ、狭いライブハウスの楽屋で大柄な体を小さくしていた男は同じ大学の一年生で、坂之上豪と名乗った。
「だから言ったじゃない! ライブくればわかるって」
 高校生の時から『GENKI』のファンだという岩田優花は、無理やり連れてきた彼氏を見上げて訴えた。
 何しろ優花は、メンバーが在籍しているという理由だけでK大を受けたほどの徹底ぶりだ。
「優花にしちゃ、上出来の彼氏じゃん」
「ほんとに彼氏いたのかよ、優花ぁ」
「幼馴染みなんだ。つき合い始めたのは最近なのよね」
 メンバーにからかわれながら、うふふ、と優花はちょっと鼻高々だ。なるほど彼氏の見てくれはかなりランクが上といえた。
 裕福な家の娘らしく、車はミニクーパーだし着ているものは殆どブランド物だが、明るくチャーミングで誰とでもすぐ打ち解けるタイプだ。
 多少自己中なところも男たちには、可愛い、ですまされる。
「マサ、傷心抱えてもまだ死ぬなよ。明日のライブが終わってからなら許す」
「元気さん、ひでー!」
 新しく入ったドラムスのマサこと木田雅人と優花は同じ学部の一年生で、マサはどうやら優花を狙っていたらしい。
「あれ、涼子、みっちゃんは?」
先ほどから難しい顔で楽屋の使い古したソファに陣取り、タブレットを覗き込んでいる大人っぽい巻き毛の美人に、辺りを見回しながら元気が聞いた。
「ああ、来週のライブハウスと何かトラブってるみたい。外で、携帯でやりあってた」
「へえ、どうしたんだろ」
 浅野涼子は、ベースのみっちゃんこと古田光彦とは高校時代からつかず離れずのつき合いで、ギターの元気やボーカルの一平と同じ三年生だ。
ビラまきやSNSなどネット関連を引き受け、雑事を手伝ってくれる貴重な戦力でもある。
 ライブが終わると、リーダーのくせに涼子の横でふんぞり返り、黙って煙草をくわえて何もしようとしない一平こと鈴木一平。


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