煙が目にしみる19

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 ドアを開けると、どこにでもあるチェーン店の居酒屋は、十二月とあってひどく賑わっていた。
「あ、みっちゃん、こっちこっち」
その一角を占領し、遅れて到着したマサを入れてさっさと打ち上げが始まっていたところへ、ようやくみっちゃんがやってきた。
「ったく、あのクソオヤジ、最初の条件と違うだろうが!」
「『レッドハウス』、足元見てんな~ ま、ま、ダンナ、とりあえず駆けつけ三杯!」
 隣に座ったみっちゃんに、元気がジョッキのビールを差し出すと、みっちゃんは相当頭にきていたのか、それを一気した。
「おおおお、珍しー、みっちゃん、もういっちょ、いけー」
 マサが囃し立てる。
「チクショー、年末だからとか何とかかんとか、チケット、ノルマ増やしやがって」
 みっちゃんの怒りはまだおさまらないらしい。
「んなもん、やめちまえ!」
 一平が暴言を吐く。
「そうは行かない。別に『レッドハウス』でどうしてもやりたいわけじゃないが、楽しみにしてくれてる客がいるんだからな」
 正論をぶつけられて一平はむっとするが、返す言葉はない。
 『レッドハウス』はライブハウスとしては老舗で、ここでやってビッグになったバンドがいくつもあり、売れるための一種のステイタスのようになっている。
「よし、アシが出た分、俺が一つバイト増やすし」
 元気がぽんっとみっちゃんの肩を叩く。
「だって元気、昼はカテ教で、夜は店出てるだろ? 俺がやる! コンビニかけもちして」
 マサが息巻いた。
「バーカ、お前、それじゃ般教全滅だろーが。一年坊主はくだらないこと考えないで、ありがたく教育を受けておけ」
 ペシッとみっちゃんに頭を叩かれ、マサは唇を尖らせる。


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