煙が目にしみる2

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 川の水は、ここ数日の冷え込みでさらに透き通ってきたような気がする。
 愛犬リュウを連れて橋にさしかかった岡本元気は、何気なく川原に目をやった。
 たゆたう流れの中、一羽の鷺が翼を休めている。
 東京から戻り、この町で暮らし始めてから、時間の流れがわからないと感じることが多くなった。
 速いとか遅いとかではなく、いつの間にか、ということがしばしばだ。
 緩いといったほうがいいかもしれない。
 こうして鷺の動きをのんびりと見つめられる、そんな自分が不思議ですらある。
 現実には時間は確実に流れている。
 俺だけ、進歩してないってことかも。
 明け方の夢も最悪だった。
 クッソ…、また、あんな夢………!
 夕べ初雪が降ったせいだ。
 夏が猛暑だったにもかかわらず、今年は冬が早い。
「ま、たかが夢だ、夢! な、リュウ」
 ワン、と尻尾を振る柴犬に引っ張られて元気は走り出した。
 橋を渡って、三本目の通りを右に曲がる。
 江戸時代から続く造り酒屋のある通りには、土産物屋や飲食店が軒を連ねていた。
「すごい、梁ですね、何百年も昔のものなんですか?」
 造り酒屋の前を通りかかったとき、中から聞こえてきた声に元気はちょっと振り返った。
「これはうまい! なるほど、伝統の味ですねー、造り酒屋の中では、一番古いんだそうだよ。いいショット撮れた?」
「もちろん。でも都築さんがよかったのは酒の方でしょ?」
「あっはは、それもあり、だよ」
 暖簾の向こうからまた豪快な笑い声がした。
 朝から賑やかだな。
 街の観光のメインとなっているこの界隈は、表側は古い造りのまま保存されている。マスコミの取材を受けることも少なくない。
「おっはよー!」
 店の勝手口から見知った顔が現れ、元気は足を止めた。


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