「おはよ。紀ちゃん、早いじゃん」
「だって、今朝早くから、お店に雑誌の取材とかきてて、うるさかったんだもん」
「なんだ、心を入れ替えて早起きしたわけじゃないんだ」
へへっと笑う紀子は、しきりと尻尾を振っているリュウの頭を撫でる。
通りを白く染めていた雪は既に消えていたが、こんな日はおそらく一日中気温が上がらない。
春と秋に行われるこの街の祭りは有名で、毎年観光客がどっと押し寄せるが、街全体がどこもかしこも、いかにも観光に終始して、あちこちにホテルが立ち並び、昔ながらの風情が失われていく様は見ていて面白くはない。
それが生活に関わるのだから仕方ないかもしれないが、同じように祭りや観光に力を入れながら、その佇まいを壊すことなく訪れる人を迎えている隣町の方が浮き足立つこともないような気がするのは、隣の芝生、というやつか。
まあ何にせよ、父親の残した店を継いで二年、最近ようやくこの街も元気の店として認めてくれたのだろう、かつての常連さんも戻ってきた。
数件先に、古い蔵とみえる建物がある。元気の大切な城だ。
「店開けたら、お掃除してるから、リュウ、家に連れてってくれば」
遅刻の常習でも、紀子は現在元気の店で唯一の貴重な助っ人である。
「おう、サンキュ」
『伽藍』と書かれた古い看板はうっすらと雪をかぶっていた。
元気はその雪を手で払い、ポン、とひとつ叩くと、店のドアを開けた。
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