自然、頭が揺れる。
ギュインン―――!!
元気のギターが艶やかな悲鳴を上げ、淀んだ空気を揺るがした。
ギターを胸に抱えたまま、元気はゆっくりとステージに膝をつく。
音はまだ鳴り止まない。
元気は閉じていた目をようやく開ける。
虚ろな視界の中に飛び込んできたのは、カメラを構えた豪の双眸。
一平に抱きかかえられるようにして元気は立ち上がり、促されてステージを後にする。
歩きかけて、元気は恍惚と音の余韻に浸っている観客に向かってピックを投げた。
「も、すんげー! 俺、こんなすげーの生まれて初めて!」
楽屋に戻るなり、豪が興奮して声を上げた。
「俺だって初めてだぜ! スティック飛ばさなかったのが不思議なくらい」
「よくついていったな、マサ」
みっちゃんがポンとマサの頭に手を置いた。
「何たって、元気のギター! 神がかり的? 客じゃなくたって、もう、惚れちまうー! 俺ぇ」
「悶えてんじゃねーよ、んなとこで、マサ」
みっちゃんが苦笑しながらベースを置いた。
「みっちゃん、今日、音、録ってたよな?」
「録ってなかったら、一生後悔もん? 涼子が動画撮ってたし。お前の方は、いいショット撮れたか? 豪」
「文句はぜってーいわせない!」
楽屋の中で行き交うそんな会話が、がんがん頭に響く。
元気は眉を顰めた。
ちょっと風邪気味だったのがいけなかったのかもしれない。
「るっせーな、ぎゃんぎゃん! てめーら、出て行け!」
そんな元気のようすに気づき、興奮冷めやらぬ面々に向かって、いきなり一平が怒鳴りつけた。
勢いに押されて、みんなが慌てて楽屋を出て行った。
「大丈夫か?」
額の上にそっと一平の指が触れ、髪をなでる。
長い付き合いで、こんな時の一平が妙に優しいことを元気は知っていた。
元気は目を開けた。
「ああ、風邪引いたらしい。今夜はこのまま帰る。タクシー呼んで」