元気が自分の部屋に戻って数日、豪は元気の前に姿を現さなかった。
ひょっとして、あんなとこ見て、もう友達やってらんねーってか?
普通は、そうかもな。
何をしても、心に重石を抱えているように、からだの動きまでが鈍い。
沖縄土産の泡盛やゴーヤを携えて元気の部屋に豪がやってきたのは週末だった。
「よ、う、いい色に焼けたな」
豪の顔を見た途端に、元気は心の重石がすっと消えていくのを感じた。
新鮮なゴーヤは夏の香りがした。
「元気の作ったゴーヤ炒めに赤カブ漬けとくれば、も、最高だね。早く飲もうぜ」
ピーマンやにんにくと一緒に炒め物にしたゴーヤをつつきながら、豪は軽快に泡盛をあける。
沖縄の海の色がめちゃくちゃきれいだったとか、潜って見た海の中の魚が実に感動的だったとか、豪は妙にハイな口調で語り始めた。
「んで、島の猫はさー、ほんと自由気ままに歩いてやんの。後で見せてやるよ、牛とかもさ、傑作なやつがいてさー」
ペースが速く、もう酔ったのか、ゲラゲラ笑いながら、豪はテーブルを叩く。
「今度、元気も一緒に行かねー?」
「北海道の次は沖縄かよ。いいご身分だよなー」
調子いいやつだ、と元気は豪を見ながらグラスを傾ける。
「ちぇ、仕事だぜ? しかも荷物持ちとパシリ」
「ったりまえだ、アシの分際で」
「海外は? 今度、海外ツアーってのやればいいじゃん。日本で売り出す前に、海外で売れて、逆輸入とか?」
「だなー。お前こそ海外、行った?」
勢い込んで話す豪に、元気も笑いながら聞き返した。
「行った。大学決まった時、春休みに一人でヨーロッパ回った。ヨーロッパもまた行きたいよな。元気は?」
「ドイツとイギリス、それからちょっとニューヨークとかカナダとかも行ったな。チョービンボー旅行!」
「ひとりで?」
「いや、一平と。俺らも一年と二年の春休み」
一年の時のヨーロッパ旅行はめちゃ楽しかった。
特にロンドンやグラスゴーなどで行ったいくつかの好きなロックバンドのライブは最高だった。
こうと決めたら猪突猛進的な一平にはかなり振り回されたけど。
いや、振り回されたのはもう入学した直後くらいからか。
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