煙が目にしみる32

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 悪い、などと、豪が露ほども思ってもいないことは、二日とおかず、元気の部屋に入り浸ることで明白だった。
 挨拶もそこそこに、豪は忙しなく元気が着ているものを脱がしにかかる。
 豪の肌の温かさに、拒むどころか、触れられれば自ずと熱い息を漏らしてしまうことに、元気にも何ら言い訳のしようがない。
 飽くことなく二人は互いを貪り合う。
「痕つけるなよ! 明日ライブなんだから」
 そんな忠告も互いに夢中になってしまうと、きれいさっぱり宇宙の彼方に消えた。
「くそ、Tシャツだからいいようなものの」
 朝には頭の中が少しまともになるのだが、ほんのちょっとした後悔も、たった一つのキスがどうでもいいものにしてしまう。
 豪に、優花に対する罪悪感。
 好きだ――臆面もなく、幾度でも口にする豪の言葉に対して、どうしても拭えないそれは静かに元気の心を蝕んでいく。
 何も考えず女をとっかえひっかえしている一平の場合、たまに言い寄ってきた女に男がいたりして、トラブルを起こすなんてこともあるのだが、さすがに元気は人様のモノを盗るようなマネだけはしてこなかった。
 それが、自分の中のきつさから逃れるために、よもや女からその彼氏を奪うような形になっている。
 二人の関係は、熱に浮かされた一過性の病だ、モラトリアムの中での遊びなのだ。
 自分が卒業すれば、こんな泡沫のような関係は終わる。
 そんなことを考える自分が卑怯だと思いながらも、いずれは優花という女のもとに帰るであろう豪の姿は容易に想像できる。
 好きだ、そう言う豪は、元気に答えを乞うことはなかった。
 ――――やめろ!
 俺はお前を利用しているだけだ。
 一平への想いのきつさから逃れるために。
 少しずつ元気の周りでも何かが軋み始めていた。
 元気が卒業しても、ずるずると二人の間は離れることはなかった。
 同時に元気の中の罪悪感は、岩を浸食する波のように、ゆるゆると元気の心を脅かした。
 めでたいことに、元気とみっちゃんだけでなく一平も無事大学を卒業した。
 一平には、卒論も書いてあげるわ、という女が周りにいただけの話だ。
「ずりぃ! 一平」
「俺は、卒業なんかどうでもよかった」
 それが一平の本音だろうことはみんながわかっていた。
 ただ、その頃一段と派手になっていた一平の女とのつき合いは、まさしく手当たり次第という有様だった。
「お前がつれないからだろ」
 みっちゃんが、ある日ボソリと元気に言った。
 楽屋でもあれだけあからさまに元気にべたついている豪を見れば、二人の関係は隠しようがない。
 それ以上言わないみっちゃんの言葉の底には、優花に対してどうするつもりだ、という非難を感じないではいられない。
 元気には答えるべき言葉が見つからなかった。


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