騒然となっている中で駆け寄ってきた優花には、豪の言葉は聞こえなかったらしい。
元気は豪の肩に回していた腕をはずす。
「ああ、平気だ、これくらい」
優花の手を軽く払いのけ、豪はカメラの入ったバッグを肩にかけた。
「俺、これから蒲生さんと打ち合わせだから。元気、また連絡する」
「豪!」
優花の声にも応えようとはせず、ライブハウスのドアを開けて、豪の後ろ姿が階段を駆け上がって行くのを元気は黙って見ていた。
涙目で豪を見送った優花に、元気は声をかけることはできなかった。
どうしようもない後ろめたさともどかしさが元気から離れなかった。
「優花が別れ話にどうしても応じない」
ある日、元気の部屋を訪ねてきた豪が言った。
くるべき時が来た、と元気は思った。
「どうして別れる必要がある?」
口は勝手に動く。
予想していなかったのだろう、振り返った豪は目を見開いた。
「お前とはちょっとしたお遊びだ。でなくても、お前のは浮気で、いずれ熱も醒める。そろそろ、優花のところに戻れよ」
ちょっと笑みさえ浮かべて。怒ればいい。いい加減、潮時だな。
「あんたの言っているのは、上っ面だけの嘘っぱちだ!」
豪は怒った。
どうしても解くことのできない方程式がそこにあった。
それ以上、お互い何を言うこともできず、流されるように二人はからだを重ねた。
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