煙が目にしみる37

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 その夜はいつものようにライブの打ち上げで、メンバーと関係者全員が居酒屋に繰り出した。
 あの口論以来、元気は豪とあまり口を聞いていなかった。
 ライブに飛び入り参加したタダシこと斎藤正は、親しくしているバンドのギタリストだが、元気に心酔していて打ち上げにも同席していた。
 ライブで黄色い声を張り上げていた女の子たちも、半ば強引に打ち上げに顔を見せている。
 そろそろ陽射しも柔らかくなってきたというのに、むやみに肌を露出させたセクシー系からお嬢様風まで、一平や元気は、席に着くなり女の子に囲まれていた。
 メンバー目当てだけでなく、すっかりライブでは馴染みになった『カメラマン』豪のファンまでも現れた。
「豪、写真、みせてぇ」
「えー、あたしもみたいー」
 女の子に両脇から責められて、豪は仕方なくバッグから写真を取り出した。
「きゃー、かわいい! マサ」
「これ見て、すんごい、きれー、元気」
 がっしりと男らしいガタイに加え、豪の精悍ではっきりした中にも甘さが見え隠れする顔立ちがキュートだと、ルックスだけでも女の子が放っておくわけがない。
「やっぱ女は見るところは見てるな。豪ちゃん、何人お持ち帰りかなー?」
「勝手なこと言ってんじゃないわよ、光彦」
 みっちゃんの台詞をバッサリ切って捨てると、涼子はその隣でウイスキーのロックを空けた。
「そんな飲み方、よせよ」
「人の飲み方がどうだって関係ないでしょ。おにーさん、ヘネシーのロックちょーだい」
 聞く耳ももたず、涼子は店員を呼びつけて勝手に追加注文する。
 ここにもまた危うくなっている関係があった。
 みっちゃんが据え膳に手をつけかけたことが発端だった。
 その頃、バンドのおっかけをする女の子の数が半端ではなく、しかも積極的だったのだ。
 バン、と乱暴に入り口のドアが開く音がした。


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