カツカツカツ、とヒールの音を響かせて優花が豪の前に立ちはだかった。
「どれよ、新しい女って!」
居丈高な物言いに、座が静まり返る。
元気ははっとして、豪を見た。
「優花、お前、酔ってるだろ」
慌てて豪が立ち上がる。
「ちゃんと豪の口から聞くまであたし、帰らないわよ」
「とにかく、出よう」
豪は優花の腕を掴み、ドアに向かう。
「ごまかさないでよ!」
豪が何とか優花を宥めて店を出て行くと、しばし静まり返っていた空気が次第に緩んだ。
呆然と、言葉を発することもできず、元気は成り行きを見守っていた。
「ひょえー…」
「女は、こえーこえー」
マサが脱力したように首を振ると、その横でにやにや笑いながら、一平が茶化す。
「あんたみたいなのが一番タチが悪いんじゃない!」
涼子が一平にくってかかる。
「そんなのに引っかかる女もバカよね」
「優花がかわいそうよ、涼子。そんなこと言ったら」
情けない顔をして涼子をたしなめたのは、タダシとつきあい始めたばかりの陽子だ。
髪は金髪、胸の谷間がセーターからはみ出しているが、根は優しい少女だ。バンド同士が親しいことから涼子とも顔見知りだった。
「男が勝手なのよ!」
手厳しい一言を誰にともなく投げつけて、涼子はウイスキーを呷る。
「だとよ。心苦しい限りだな? 元気」
当てこすりされて、元気は一平を睨みつける。豪だけに苦い思いをさせるわけにはいかない。元気は二人の後を追って、ドアに向かおうとした。
「よせよせ、無粋なまねは」
ガシッと肩に腕を回し、一平がそれを阻む。
「離せよ、一平」
「きっとベッドで慰めてやろうってんだよ。せっかくの仲直りの夜を邪魔する気か?」