元気はウッと口を噤む。
そう言われてしまうと言葉を返せない。
「いいから、まあ、飲もうや」
豪はその夜、店にはもう戻らなかったし、部屋にも現れることはなかった。
一平の言うとおり、自分が出て行っても何の解決にならなかったろう。
どころか、もっと二人の間が最悪になることも考えられた。
どれだけ飲んだか知れないのに、頭の中だけが妙に冴えてしまう夜をもてあました。
とっくにわかっていたことじゃないか。
でなければ、こんな、掻き毟りたいほどの胸の痛みは説明がつかない。
「豪……いやだ、豪……俺から離れて行くな」
答えが出てしまった方程式。
元気は、初めて心の奥底にある真実を吐き出した。
身代わりにした相手は、もう身代わりではなくなっていた。
蓋をした想いのきつさをいつの間にかこの男の熱が溶かしてくれていた。
だが、吐き出した真実を豪に伝えることはできなかった。
飛ぶ鳥を落とす勢い、とはこういうことを言うのだろう。
アルバム『CRY OUT 声をあげろ』がミリオンセラーを記録して一大センセーションを巻き起こした。
そこまでいくと、インディーズバンドとはいえ、メディアが黙っているわけはなかった。
音楽雑誌はもとより、TV、ラジオなどでも彼らのことを取り上げた。
「別れるって、ちゃんと言った。優花も納得した」
優花をつれて消えた翌日、豪はそう言って元気のもとに帰ってきた。
覚悟を決めていた元気は、ただ、唇を噛んだ。
「愛してるんだ……元気……」
豪は元気を抱きしめて訴えた。
冷たい風がビルの間を吹き抜けるようになった十月の初め、考えた末に元気は会社を辞めた。
どうにも忙しく、ライブに穴があきそうになったからだ。
どっちも両立できるほど会社の仕事は安易なものではないと社長に詫びた元気を、社長はわかってくれたが、新人にしては要領よく仕事を取ってくる上にその性格から会社のみんなには惜しまれた。
結局、元気は以前やっていたバーのスタッフに落ち着いた。
だが、今度はライブに力を入れようという元気の意気込みにもかかわらず、メンバーの間にあるわだかまりが如実に大きくなっていった。
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