煙が目にしみる40

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 それは、いずれ用意されていた一幕だったのだろうか。
 恋にのめり込んで目の前の相手しか見えなくなっている人間は、周りに対して無頓着で時に残酷だ。
「ったく、一平のやつ、我侭も度を越してるぜ!」
 ライブを前にまたしても頓挫した一平の態度に、誰もが苛ついていた。みんなは一平の立ち回りそうなところを探しまわった。
 決まりかけているメジャーデビューの話も、このままではどうなるかわからない。
「原因はわかってる。俺が気に入らないんだ」
 楽屋でギターのチェックをしていた元気は、舌打ちした。
「元気、そんなことはない」
 ライブ写真を撮るためにスタンバイしていた豪は元気を見た。
「俺の顔見れば、皮肉だぜ? いやでもわかる。ほんといって、俺はメジャーとか、そんなことはどうでもいいんだ。みんなでライブやってるのが楽しかっただけで。意識の違いがあるんだろ」
「元気……」
 豪は辛そうな顔を見ていられずに元気を抱き寄せる。そのまま、顎を掴んで上向かせると、唇を合わせた。
「愛してる……」
 豪が口にした言葉は、閉まりきっていないドアの向こうにも届いてしまった。
 元気ですら、楽屋が誰でも出入りする場所であることを失念していた。
「……嘘……どうして!?」
 ドアが開いて、そこに優花が立っていた。
 空気はそのまま凍りつく。
「…新しい女って……私を捨てて選んだのって…元気……?」
 彼女が身を翻し、楽屋を飛び出して、やがて急ブレーキの音が聞こえるまで、たいして時間はかからなかったろう。
 そこにいろ、と言う豪を追って、外に出たのは胸騒ぎがしたからだ。
 事故だ、救急車、と誰かが叫んでいた。
 元気がようやく辿り着くと、優花の運転する車が電柱にぶつかって停まっていた。
 歯車が、狂い始めた――――――。


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