煙が目にしみる41

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 その夜のライブは中止になった。
 日を改めて行うということで、みっちゃんが平身低頭ファンに謝罪した。
「手術、終わった。大腿骨骨折とむちうち、脳や内臓には支障はないだろうって」
 病院の待合室で呆然と待っていた元気は、豪を見上げた。
「おばさんもおじさんも来てくれてるし、元気、もう帰ろう」
 元気は立ち上がった。
「優花とお前、幼馴染みって言ったっけ」
「ああ。家が近所で、優花んとこのおじさんには、ガキの頃は悪さばっかして、よく怒られた」
「……お前、もう少し、ついててやれ。おじさんへの罪滅ぼしに」
「元気…」
 一瞬、頼りない、縋るような目を豪は向けた。
「じゃな」
 元気は何か言いたげな豪の視線を振り切るように病院を出た。
 それから毎日のように豪は病院に通った。
 優花の両親に頼み込まれたのだと、元気に電話してきた。
「優花はめちゃくちゃ元気だ。脚が動かせないのが退屈で仕方ないらしい」
 そういった後で、豪は続けた。
「あんたの考えていることはわかる。でも、優花の事故は、俺たちのこととは何の関係もないから」
 関係ないはずはない。
 元気は思った。
 本当に事故かどうか、それすら疑わしい。
 考えるとゾッとする。
 自分のせいで誰かが絶望して命を落とすとか、優花の場合、怒りに任せてということもあるかもしれないが、いずれにせよ平気でいられるわけがない。
「元気、大丈夫?」


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