煙が目にしみる42

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 バイト先のバーで、ぼんやりとグラスを拭いていた元気が声をかけられて顔を上げると、いつの間に来ていたのか涼子が微笑んだ。
「優花のとこ、お見舞い行ってきたのよ」
 元気はグラスを拭く手を止めた。
「元気だったわよ、てんで。リハビリすれば元通り動けるようになるみたいだし」
「そうか」
 自分が行ったら、優花が動揺するだろうことは想像がつく。
 それを考えたら、優花のところには行きたくても行けなかった。
「ねえ、元気」
「え?」
「あんたが責任感じることはないと思うわ。それだけ、言いたかったの」
 涼子は自分と豪とのことを知っているのだろう。
 優花が話したのかも知れない。
 いや、もうおそらく何か感づいていただろう。
 涼子でなくても、他のメンバーにしてもそうだ。
 涼子が出て行ったドアの方を虚ろに見つめながら、元気は大きく息をついた。
 ライブは当分中止だ、みっちゃんが決断を下した。
「一平なら、少々調子悪くてもどうにかなるけど、元気が元気ないんじゃ、やっても意味ない」
 店に現れたみっちゃんは苦笑いした。
「悪い」
「そんなこともあるさ。元気出してくれよ。逆に、ちょっと冷静になって考えるのにいい機会だと思っている。ワールド・ミュージックとの契約、何とかこぎつけるつもりだ。期待しててくれよ」
 おそらく彼ならやるだろうと元気は思った。
 みっちゃんは卒業後、先輩のつてで予備校で英語講師の口を見つけて、私生活の方もうまくやっていた。
 豪は相変わらず病院と仕事とたまに大学のゼミに顔を出すという慌ただしさで、元気とは携帯で連絡を取るだけの日が続いていた。
 舗道に落ちた木の葉をビル風が舞い上げる。
 師である蒲生と一緒に、仕事で豪がオーストラリアに発った翌日、バイト先のバーにいた元気の携帯が鳴った。
 兄からだった。
「…オヤジが……?」
 親父が倒れた、すぐに迎えに行くから、そのまま家に帰るぞ、兄の言葉が頭の中でリフレインした。


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