豪が活躍しているのなら、それでいい、と。
なのに気がついたら、東京行きの新幹線に乗っていた。
持ち物といったら、ジーンズのポケットに財布が押し込んであるだけだ。
野暮用で、店は一日、二日休みにするからと、紀子には列車の中から電話した。
何の用か聞かれる前に切ったが、帰ったらいろいろ詮索してくるに違いない。
「にしても、寒いなー、しゃーない、あとでマフラーでも買うか」
紀子ではないが、ジジクサイかも。
一人突っ込みをして顔を上げると、豪が置いていったチラシで見た写真が目の前にあった。
ビル自体がアーティスティックで、写真は真鋳のオブジェに組み込まれたポスターだ。
猫を抱いた異国の少年が笑っている。
チケットを買い、中に入るなり、ぐっと腹に応える写真が並ぶ。
だが、戦争やテロ、貧困、飢餓、重い題材を扱っているにもかかわらず、写真の中の人間はどれも笑っている。
随分いい画を撮るようになったじゃないか。
世界を舞台に闊歩しているのだ、たくましくなるわけだ、と心の中で頷く。
「さっきスマホ見たら、今日は雑誌の撮影なんかしてるらしいよ」
急に耳に飛び込んできた声に、思わず振り返ると、若い女性が数人、ひそひそと言葉を交わしている。
豪のことらしい。
「それ終わったら、こっちくるって話だったんだけど………あ、きた!」
え………!
咄嗟に、元気はパネルの陰に身を隠した。
確かに豪だ。
「豪、待ってよ」
豪ばかりを見ていた元気は、その声にはっとする。
優花……。
外していたサングラスをかけ、元気はそのままそっと会場をあとにする。
おそらく二人は気づいていないだろう。
豪の腕に手をかけていた優花は、すっかり足も元通りに歩いている。
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