煙が目にしみる50

back next  top  Novels


 時々電話をくれるみっちゃんの話だと、インディーズではかなりの人気と実力を持つメタルバンドに成長したようだ。
「今までどこ雲隠れしてたんっすか?」
「いよいよ、『GENKI』に戻るんだ?!」
 口々に問い詰められて、元気は閉口する。
「ちょっと物見遊山にきただけだって」
「えー、『GENKI』に戻んないんなら、いっそ、俺たちと一緒にやりましょうよ」
 ははは、と元気は笑うばかりだ。
 もう遊びでしかバンドをやるつもりはない。
 もともと彼らのようにバンドで一生、なんて夢を描いたことはないのだ。
 好きだからやっていただけで、元気自身は楽しめればそれでよかった。
 メンバーには不義理をしたかとも思うが、現に『GENKI』は元気がいなくてもビッグになっている。
 もし、あの時あいつに逢わなければ、もし、父親が今も健在ならば、ひょっとしたら今も『GENKI』でギターを弾いていたかもしれないが。
 俺って、意志薄弱?
 けれど、もし、や、たら、の中には何も真実がない。今の自分が在るべきところに在るだけだ。
 メンバーに誘われるままにギターを手にとって、ライブに飛び入り参加した。
 観客の中には元気を知っている者も結構いたらしい。
 一時騒然となったライブハウスは、次第に熱を帯びていく。
 久しぶりにそんなライブを体感し、観客よりも自分自身が酔いしれる。
 重く深い音の中で目を閉じると、脳裏を去来するかつての情景。
 あいつの顔、声、手のぬくもりや息づかいまでが今でもリアルに思い出してしまう。
 優花と、ちゃんとうまくいってるわけか。
 展示会場で見た二人の姿が目に焼きついてはなれない。


back next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます