自分が書いたシナリオ通りに時間が進んでいることに苦笑しながら、胸をナイフで切り裂かれるような痛みを覚える。
しなやかな指から紡ぎ出される音を一度でも聴いた者からは、絶賛されていた元気のギター。
彼らのアンコール曲の後、元気は自分の好きなクラシックロックの曲を続ける。
メンバーもそれに合わせて真剣なセッションが繰り広げられる。
いつしか観客とも一体になり、ライブハウスが揺れる。
歓声がまだ鳴り止まなかったが、元気は楽屋に引っ込むと、そろそろ帰ろうと思っていた。
「俺、しびれっぱなしっすよ、元気さん!」
「俺もう、ギター弾けねーよ、あんな音聴いちまうと」
「ばーか、お前が元気さんと比べるのもおこがましんだよ」
あたふたと続いて戻ってきたメンバーが口々に喚く。
「楽しかったよ。邪魔して悪かったな。橋本」
「何ゆってんですか、邪魔だなんて……」
バンッ!
言いかけた橋本は、乱暴に開けられたドア口を見て口を噤む。
「よう…」
戸口に立つ長身の男に、元気はちょっと驚いた。
短めの銀色の髪に夜も更けたというのに黒いサングラスをかけていたが、嫌味なくらい整った顔は十分見て取れる。
Tシャツにジーンズとブーツ、無造作に黒いレザーのロングコートを羽織っていた。
「一平さん!」
「何やってるんだ、こんなところで」
よく通る低い声が投げかけられたのは無論元気にだ。
「何って、久しぶりにギター弾かせてもらってさ。気持ちよかったよ。それよか、どうしたんだよ、お前こそ、ファンの子たちに見つかったら大騒ぎになるぞ」
「さっき、橋本がお前がいるって電話してきたから来たんだ。とにかく、来い」
いきなり元気の腕を掴んで、一平はとっとと楽屋を出て行こうとする。
「来いってどこへ?」
「え、元気さん、打ち上げきてくれんじゃないのかよ~」