橋本のぼやきを背に、慌ててジャケットを掴み、たったか楽屋を出る一平に引きずられるようにして、ライブハウスを出た。
まだ十時前とあって、人通りはかなりあった。
一平がそこにいるなどとは思ってもいないせいか、数人の女の子が、あれ、とか、うそ、とか叫んでいたが、二人はすぐに先の通りに停めてある白いポルシェにたどり着いた。
「ちょ、待てよ、一平、どこ行くわけ?」
元気が問うのにも何も答えず、元気をナビシートに押し込むと、さっさと自分も乗り込み、すぐにエンジンをかけた。
一言もしゃべらないまま、点滅していたハザードランプを消すと、一平の運転する車はやがて赤坂にある都内でも有数のシティホテルのエントランスに滑り込んだ。
一平はドアボーイにキーを渡すと、元気の腕を引いたままロビーに入っていく。
「おい、いっ…」
一平、と声をかけようとして、元気は口を噤む。彼が人気ミュージシャンであることをわざわざ知らせることはないだろう。
一平はフロントでサインする時でさえ手を離そうとしない。
カードキーを受け取ると、一平は元気の手を掴んだままエレベーターホールに向かう。
「離せよ、いい加減」
元気は小声で一平に囁くが、一平はそれを無視して元気の手を握ったままエレベーターに乗り込み、そのまま、元気は最上階のスイートルームに連れ込まれた。
「そろそろ口聞いてもいいんじゃないか? 何だってこんなとこへ!」
サングラスをはずしてテーブルに置くうちも元気の手を離そうとしない。
「俺の質問に答えろよ!」
一平はその質問に答えようとせず、元気を奥のベッドルームに引きずっていく。
「おい、何考えてんだっ……」
元気の言葉はいきなりベッドに体を沈められて途切れる。
間髪いれず一平の体がのしかかってくる。