煙が目にしみる55

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「お前、いくら彼女がいないからって、久しぶりに会ったダチにやつあたりして、こんなことするか? 普通」
 声を張り上げたせいで、蹂躙されたところが痛みで疼く。
「エリナ、体はいい女だぜ」
「何だよ、その言い草は!」
 また喚いて起き上がろうとした元気は、すぐベッドに突っ伏した。
「くっそ、尻が痛いのと腹が減ったので、動けねー」
「そういや、腹減ったな」
 一平は受話器を取り上げた。
「ああ、何かみつくろってくれ。和食か、洋食か? んなもん、どっちでも…、ああ、わかったディナーでいい。ブランデーとシャンパンどっちも持ってきてくれ。銘柄だぁ? んなもん俺がわかるか! とにかく美味いやつを持ってくればいいんだ」
 喚き散らすと、一平は乱暴に受話器を置く。
「お前にロマネ・コンティだの、アウスレーゼだの言えとは言わないが、いくらなんでももうちょっと言いようがあるだろ? 仮にも人気ミュージシャンなんだからさ。しかもスイートなんかに泊って無駄に金使いやがってるくせに!」
 呆れて元気は一平を諭すように言う。
「ロマネだかコンチキだか知らねーが、美味いか美味くないかは俺が決める」
 もう言葉もなくなって、元気は緩慢な動作でベッドから這い出すと、バスルームに向かう。
「大丈夫か?」
 裸の背中に声をかけてくる一平に、元気は「くそったれ!」と返す。
 お陰でもやもやもふっとんだけどな。
「気持ちがよきゃ、イケちゃうのよ。ったくしゃーないねー、男ってやつは」
 バスタブに湯を張り、ゆっくりと体を沈めながら元気は、またふうと大きくため息をついた。
 豪と優花のツーショットが頭の中をちらついて消えなかった。
 自分が選んだことなのに、今更動揺している自分に苛ついていた。
「ちぇ、要は欲求不満ってやつか!」
 そう結論づけると、少しは気分も上昇する。
 リビングに戻ると、すっかりディナーの用意が整っていた。
「絵に描いたようなフレンチディナーだが、なかなかいけるじゃん」


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