器用にナイフとフォークを使って仔牛のソテーを切り分ける元気の向かいでは、頬杖をついたまま、一平がフォークで肉をつついている。
「にしたって、見ろよ、適当なこというから高いもんばっか持ってこられたじゃないか」
二人で一気に空けてしまったシャンパンのボトルを横目に元気が一平を睨む。
「高いのか」
興味もなさそうに一平は口にする。
「ロゼは特に」
「まずくはなかったからいいだろう」
今度はブランデーに手を伸ばす。
「相変わらずの唯我独尊男」
ふん、と元気は一平を睨む。
「その俺を振り回すお前はなんだ?」
「いつ俺がお前を振り回したよ?」
一平が注いだブランデーのグラスを傾けながら、元気は一平を上目遣いにみやる。
「自覚がないところがお前らしい」
鼻で笑う一平にはお構いなく、元気は空になったグラスに勝手に酒を注いで空ける。
「豪に会ったのか?」
長くなった煙草の灰が絨毯の上に落ちるのもかまわず、不意に一平が聞いた。
「…何で、今更俺がやつに会うんだよ」
一瞬動きを止めるが、元気はまたグラスを口に運ぶ。
「わざわざ会いにきたんじゃないのか? やつに。写真展に行ったんだろ?」
「…お袋のバースデイプレゼントを買いにきたんだよ。銀座の高田屋にしかないんで」
「銀座の高田屋にしか、ね」
一平が鼻で笑う。
「たまたま青山を通りかかったら、やつの写真展やってて、ちらっと見たけどな。ふん、まだまだだな」
ボトルを持つ手がぶれて、酒がグラスからこぼれる。
一平はその元気の手を掴み、ボトルを取り上げた。
「俺はまだ飲むんだぞ、返せよ」
伸ばした指が空を掴む。
「大体贅沢なんだよ、こんなすんげー夜景を一人占めにしようなんざ…」
元気の視線を辿って一平は窓一面に広がる夜景に目を向ける。
「お前、やっぱまだやつのこと…」
振り返ったときには、もう元気はソファにもたれて寝息をたてていた。
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