煙が目にしみる57

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 幾度となく寝返りを打ち、浅い眠りから覚めたのは七時を過ぎた頃だった。
 それ以上横になっていても仕方ないと、元気はベッドを下りてジーンズとセーターを着た。
 二年前、元気が実家に戻ってきて間もなく、リュウは元気のあとについてまわり、結局リュウ専用のベッドを自分のベッドのそばに置いてやった。
 もともと寒い日は玄関に上がって寝ているリュウに毛布をやったのは父親だ。
 中庭にあるリュウの家と書かれた小さな犬小屋には、たまに夏の暑い日にリュウが入っていることがあるが、家の中で過ごすことが多くなった。
 元気が起きると、リュウの尻尾が、お散歩、お散歩と喜んでいるのが手に取るようにわかる。
「はいはい、ちょっと待ってろよ」
 顔を洗ってトイレを済ませて出てきた元気は、すっかりおしゃれして出かけんばかりの母親に出くわした。
「あれ、どこか行くんだっけ?」
「だから、絵手紙のお友達と二泊でスカイツリーツアーだって言ったじゃない」
 東京に行くからなのか、服もバッグも元気の兄勇気にプレゼントされたブランドもので気合が入っている。
「あ、そうだっけ。兄貴んとこも行く?」
「今夜ちょっとお邪魔するつもり。剛や護の顔も見たいし。じゃ、あとよろしくね」
 二泊ばかりの旅行にあんな大きなキャリーケースがいるのかとは思ったものの「気をつけて」とだけ声をかけた。
 父親が亡くなって一人になった母親を心配した元気だが、元来陽気な母親は絵手紙だけでなく俳句の会だの太極拳だのと習い事に精を出すだけでなく、カルチャーセンターで週一回教えていた生け花の教室は今も続けていて、元気などより毎日のスケジュールに追われている。
 リュウを連れて外に出ると細かい雪が舞っていた。
 近年の不安定な気候は農作物はもとより観光に頼るばかりのこの街にもいくばくかの影響をもたらしている。
 異様に暑い夏や暖冬かと思いきやいきなりの大雪に見舞われ、山奥に住む友人宅は昨年も大雪で倒木のために電線が切断され、一週間ほども停電が続いて悲鳴を上げていた。
 川べりを歩いているといつの間にか母校の近くまで来てしまった。


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