煙が目にしみる59

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「またあ、せめてオーナメントと言ってよ! オヤジ入ってる!」
「ヤマコン電器のおっちゃんにオーナメントなんて通じるか」
「ヤマコン電器のおっちゃんと元気を一緒にしないでよ! お客さん来ないうちに早いとこ飾りつけしよっと!」
 そんな紀子をよそにぼんやり宙に目を向けて換気扇に近いカウンターによりかかり、煙草を指に挟んだまま、元気は煩そうに前に垂れてきた髪をかきあげた。
 一応店は禁煙にしているが、仲間同士で店を閉めて飲む時くらいは、吸いたいやつには許している。
 だが、いくら客がいないとはいえ、元気が店内で煙草を燻らすことなど滅多にないことだ。
「で? こないだ二日も休みにして、どこ行ってたの?」
 いそいそと元気が用意したオーナメントを袋から出して飾りつけを始めながらも詮索してくる紀子を、元気は片方の眉を上げて斜に見る。
「だから、友達のライブだって」
「何か変だよね、あれから。煙草なんかいつも吸わないくせに、そうやってると、元気、色っぽーい」
 元気が思いつきで東京に行ってからというもの、紀子の追及は手を緩めずに続いている。
「紀ちゃんこそ、髪型変えたろ? いい女になったよ」
 元気はさほど吸わないうちに短くなった煙草を灰皿につぶした。
 昔はカッコ付けもあって銜えていた煙草は基本的に好きではないし最近は滅多に吸わないのだが、何やら落ち着かなくて、店に来る前に買ったのだ。
 久しぶりの煙草は苦いばかりだった。
「昨日、美容院で切ったの」
「克典の果報者め」
「あんなやつのことはいいの。はぐらかさないでよ、元気狙ってる子、いっぱいいるんだよ?」
 確かに直接の誘いはいつも結構受けているが、その度ごとにうまくかわすのが最近面倒になっている。
 誰かとつきあおうという気になったこともない。
「うーん、じゃ、紀ちゃん、窓口になってさ、うまくさばいてよ。もてすぎるのも困りもんだよなぁ」
「また、そんなこといってぇ…人が真剣に話してるのに! イブの予定はあるの?」
「イブは、例年通りライブパーティやろーが」
「じゃなくてぇ、そのあとに決まってるじゃん」
「あと? 片づけて寝るんだよ。それより、何? 克典とケンカでもした?」


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