自分のことには無頓着なくせに、人のことには目ざとい元気を、紀子はちょっと睨みつける。
「あたしのことより、元気のこと! 心配してるんだからね、いい年して相手もいないなんてさ」
ようやく客が入ってきたので二人はおしゃべりをやめて、カウンターに戻る。
大テーブルに陣取った中年の賑やかな婦人グループは言葉からすると関西からだろう、声も大きくかしましい。
雪が多くて歩きにくいことから、どこの温泉がよかったかという話まで、狭い店内だから嫌でも内容が聞こえてしまう。
「せっかくのムーディな曲が台無し。でもツリー飾ってるのに、またあれ、かけてるし。ここんとこ毎日よね」
紀子に指摘されて、元気はさりげに東から借りたままの『煙が目にしみる』の入ったレコードをプレーヤーからはずし、クリスマスオラトリオをオーディオ機器にセットする。
「まさか、東の二の舞で振られたなんてことはないよねー?」
「カプチーノ、持ってって」
紀子の突っ込みを元気は何とかかわす。
それにしても、ホテルで目覚めた時は最悪だった。
一平と寝てたはずなのに、夢の中で元気を抱いていたのは豪だった。
しかも内容が赤面もので、とても口に出せるものではない。
東京で遊びまくった反動のように、地元に帰ってからというもの、ほとんど坊主のような生活を送ってきたのだが。
まだ欲求不満かよ。
なんて笑っていられればまだよかった。
自分が放り出して逃げてきたのに、この期に及んで、今頃、何であいつに振り回されるんだ。
「でももうすぐだねー、クリスマスライブ」
紀子はにんまりと飾りつけも終わったツリーを見つめる。
去年の十二月二十四日に店でやったクリスマスライブはなかなか盛況で、今年も『昇り竜』で元気も当然ギターを弾くことになっている。
「東京とか行ってる子たちも二十四日に合わせて帰ってくるって。元気の演奏楽しみにしてるから」
「おー、じゃあ、ガンガンいくぜ」
「カッコよくお願い、元気!」
「よっしゃ!」
店に来てくれるみんなに楽しんでもらえたらいい。
人を幸せにするなんておこがましいことは言わないが、自分のいれたお茶を飲んで、ほっとしている顔を見るのは好きだ。
ふと、父親もそんな思いをカップ一杯のお茶に託していたのかと、元気はこの頃思うのだ。
明日は明日の風が吹く、だな。
元気は笑い、心の中で気合を入れた。
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