煙が目にしみる6

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 レコードに針を落とすと、元気はジャケットの文字を読んだ。
「今の俺の心にこう、ず~んとくるんだ。恋が去っていけば、煙も目にしみる……涙を隠してだな…」
「例のATはどうした?」
「俺の絵を持って、リバプールに帰っていった」
 自分の世界に埋没していた東の顔が曇る。
「まーた、振られたんだ、東センセ」
 はあ、とため息をつく東を紀子の言葉がスパッと切り捨てた。
「俺の純情な恋をちゃかさないでくれ」
「こんなとこでジメついているよか、次の相手探した方がいいんじゃない? もう若くないんだからさ」
 紀子の容赦ない言葉が次々と東の最近はぐっともろくなった胸目がけて突き刺さる。
「うるさいな、そんなすぐに他の誰かに目が移るもんか」
「だめよ、アンテナは常に張り巡らせておかなくちゃ。アタシも、いつ、すてきな人に巡り合うかしれないし」
 東はガシガシと頭を掻きむしった。
もともとスマートとは言い難い体格の東だが、東京から地元に活動拠点を移してからというもの、自宅で上げ膳据え膳の生活に慣れきった身体はメタボ予備軍の域から今にも脱しようとしている。
 それを逐一指摘する紀子と、自分に対してイラついてジレンマに陥っている東との掛け合いはもはやこの店の日常と化していた。
「彼氏がいるくせに」
「えー、だって、克典は克典だしー、まだ結婚するかわかんないもん」
 店に勤めている田中克典とは親公認のカップルなのだが、紀子はわざとそんなことを口にする。
「ドライだからなー、最近の子は」
 笑って、元気も口を挟む。
「やだ、最近の子は、なんて、オヤジくさーい、元気」
「俺たちの世代って、やはり純情なんだよなー」
 うんうんと東は頷いた。


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